Another world currency

haya

文字の大きさ
上 下
20 / 43

しおりを挟む
 白い闇の中にいた。自分の体すら見え難い程の白い闇。何故だか分からないがコレが夢の中だという事だけは理解していた。


 『よぉ。』


 気さくに呼ばれて振り向くが人の姿はない。正確には人らしき薄い灰色のシルエットだけが見えていた。


「えっと、どちら様?」

『ははは! まさかお前に自己紹介が必要だとは思わなかったよ。』


 男は俺の問いに笑っていた。姿も見えないはずなのに何故だか俺はソイツが男だと分かっていた。


『奴隷を買ったんだな。大事にしてやれよ。』

「誰だか知らないが、言われなくてもそうするよ。ローンもしてるしね。」


 そりゃそうだと男は言い、くくくっと笑い声を出す。


『ハーフエルフの子・・・』


 男は声のトーンを下げ、真面目そうに話し始める。


『あの子は特に注意して見ておくんだな。何かあったらすぐ分かるようにね。』

「何かって何だよ。」


 俺の問いには答えずに男は続ける。


『何にも無ければソレはソレで良い。何かあればソレは俺のせいだからな。俺の代わりに力になってやってくれ。』

「もし、アンタのせいで問題が起こるなら自分で何とかしてやれよ。」


 自分の不始末を人にやらせるとは、ふてぶてしいヤツだ。


『ははっ。その通りなんだけどね。生憎、今の俺じゃ無理そうだ。だから代わりに頼むよ。まぁ、その時はきっとデビちゃんが助けになってくれると思うよ。』


 あれ?確かデビちゃんって呼び方するのは俺の他にいたってデビちゃんが言ってたよな。千年ぶりだって・・・


『アイツは表に出さないと思うが、ずっと傷付いてきたと思うんだ。なんせ千年の間、恋金術士達を見送り続けてきたのだからな。だからデビちゃんの事も宜しく頼むな。』

「おい、アンタまさか千年前の・・・」

『それと1つだけアドバイスだ。恋金魔法は使い続けて成長させておけよ。今はあまり使い道の無い魔法ばかりだが、いずれ助けになるだろう。おっと、そろそろ時間だから行くわ。じゃあな。また会おう兄弟。』

「おい! ちょっと待っ・・・」

「ご主人様!!」


 急に大きな声に呼ばれて俺はハッと目をさます。


「あぁ・・・リエルか。おはよう。」

「おはようございます。すみません起こしてしまいまして。中々起きて来なかったので起こしに来たら凄くうなされていまして。何か悪い夢でも見たのですか?」


 指摘されて初めて自分の全身が汗びっしょりなのに気付く。


「うーん・・・何か大事な夢を見ていた気がするんだけど、あんまり覚えてないなぁ。誰かにリエルの事を言われた気がするんだけど・・・」

「わ、私ですか?」

「まぁ、思い出せないものはしょうがない。夢なんてそんなもんだしね。朝食にしようか。キナは起きてる?」

「はい。既にお腹をグーグー言わせてます。」


 ふふっと笑う彼女に着替えてから食堂に行くと伝え、下で待ってもらう事にした。



「ご主人、おそ~い!」


 食堂に降りて行くと俺を発見したキナに抗議される。


「こらキナ! 挨拶が先でしょ?」

「うっ、ご主人おはようです。そして遅いよー。もうお腹ペコペコだよー。」

「すみませんご主人様。キナはあまり言葉遣いがなっていなくて・・・」


 リエルが申し訳なさそうに謝ってくる。


「あぁ、別に気にしてないよ。キナ、待たせてスマンな。朝食にしようか。」



 宿屋のナイラさんに朝食を3人分持ってきてもらう。
 そして朝食を食べようとしたが、二人は椅子に座らずに俺の後ろで控えていた。


「ん? 座って食べないのか?」

「私達は奴隷なので、ご主人様が食べ終わった後に食べます。 それに食べ物を頂けるだけでも十分ですので。」


 そうは言っても後ろで見られていると食べづらい。
 それに二人とも昨日は宿に来るなり、夕飯も取らずに眠ってしまったので相当お腹が空いてるはずだ。

「あ~。俺の故郷ではそんな風習は無いから一緒に食べよう。」

「宜しいのでしょうか?」

「あぁ。それにキナがさっきから床にヨダレを垂らしまくっててナイラさんが怖い顔になってきている・・・」


 許可を出し、二人を席に座らせる。


「わーい。ごっはん♪ ごっはん♪」

「それじゃあ、食べようか。いただきます。」

「「いただきます?」」


 二人は俺の言葉の意味が分からなかったみたいで疑問に思ったみたいだ。


「あぁー。俺の故郷の言葉でな。食べる前に言う言葉なんだ。俺達は色んな命を頂いて命を繋げていくから感謝の気持ちで言う言葉だ。」

「へー。ご主人の故郷は変わっているね。でも何か良いね。」

「素敵な風習ですね。是非、毎回しましょう。」

「それじゃあ、改めて。」


 三人はそれぞれ手を合わせる。


「「「いただきます。」」」



 朝食を食べ終わってから、部屋に戻り【貨幣創造】でお金を作る。借金がある身なので少しでも稼いでおきたい。なんせローンが払えなければ死んでしまうのだから。
 そんな訳で早速二人にも仕事を手伝ってもらおうと服を着替えた後、三人でギルドに来ていた。
 


「おはようございます。」

「おはようございますユウジさん。」

「よう。ユウジ。」


 いつも通りフランさんとポドに出迎えられる。


「予想通り、奴隷を買ったみたいだな。そろそろ1人じゃ危ないから丁度良いが、良くこんなベッピンさんを二人も買えたな? そこまで稼いでたようには思えなかったが・・・」

「あぁ、実は大分無茶をして借金してるんだ。色々事情があってね。白狼の子がキナでハーフエルフがリエルだ。二人とも、こちらは世話になっているフランさんとポドだよ。」


 お互い、それぞれ挨拶してもらった。


「それでユウジさん。この二人も冒険者登録を?」

「はい、そのつもりです。登録お願いできますか?」

「分かりました。それと遅くなって申し訳ありませんが、ユウジさんも常駐依頼を沢山こなして頂いたので1ランクアップできます。ついでにしておきましょうか。」


 フランさんに言われ銅のプレートを返却し、鉄のプレートをもらった。
 二人も登録が終わり銅のプレートを貰っていた。


 「ご主人様、お待たせしました。登録章を頂いてきました!」


 リエルは嬉しそうに登録章を近付けて見せてくる。あまりの近さに柔らかい物が体に触れる。


「うーん・・・Bかな・・・」

「違いますよご主人様。銅のプレートだからEに決まってるじゃないですか。」

「あっ! そうだよね。何言っているんだろ俺は・・・ははは・・・」


 うっかりと口に出してしまっていたらしく、リエルが勘違いしてくれて助かった。
 リエルの後ろでは俺の発言に気づいたポドが声を殺しながら笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

宮廷魔術師のお仕事日誌

らる鳥
ファンタジー
宮廷魔術師のお仕事って何だろう? 国王陛下の隣で偉そうに頷いてたら良いのかな。 けれども実際になってみた宮廷魔術師の仕事は思っていたのと全然違って……。 この話は冒険者から宮廷魔術師になった少年が色んな人や事件に振り回されながら、少しずつ成長していくお話です。 古めのファンタジーやTRPGなんかの雰囲気を思い出して書いてみました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...