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その4 本物っぽいのが出てきやがった
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「っ……」
刑事さん達は冷静だったけど、梓は違った。
悔しそうに歯を食いしばり、すごい目つきで睨み付けていた。
「――失礼ですが、君は?」
紳士そうな刑事さんが訪ねる。
「あ、ワタクシこういう者でして」
あいつはしっかりと名刺を渡している。意外と私より年上なのかも……。
「ふむ……私立探偵、明智 小五郎……」
「小五郎です。今回は、依頼主の無罪を証明してほしい、という依頼を受けてやってまいりました」
しょうごろう……。すっごい紛らわしい名前なのね、彼。
「無実?」
「ええ、あそこの彼女……の無罪です」
そういや名乗ってなかったわね……。
私は会釈して病室に入った。その瞬間、梓が目をそらした。後ろめたいんだ。
「と、言うと?」
「彼女はとある殺人事件の容疑者、とされていると聞いています」
「……」
「ですが話を聞いた限りでは、違った――――おそらくそこの……名前は忘れましたが、彼女が犯人だと私は考えているんです」
刑事さんの表情は動かなかった。信じていないんだ、あいつの事。
「根拠は3つ。1つ、凶器とされる刃物についた血痕。話を聞く限りだと……端っこに少しだけ血がついいていた、ということですが、合っていますか?」
「…………」
「その前提で進めると、矛盾がある。被害者がめった刺しにされたのに血が付いてなさすぎるんですよ」
「……犯人がふき取ったのではないかな?」
「逆に聞きますが、感情的に人を殺した人間が、真っ先に、そして丁寧にナイフを拭けますか? ナイフを持って帰ろうとは思っても、すぐさまふき取ろうって考えないと思いますよ」
「それはあくまで君の主観的な意見だね」
刑事さんの言う通りだ、今言っていることは全部あいつの推理――考え。
視野が狭い、とか、言われるだけで崩れてしまう、弱い仮説?でしかないのよ。
どうやって、残りのことを証明するつもりなんだろう……?
「とりあえず、私の主観的な意見を聞いていただきたい。二つ目の根拠として、犯行方法を挙げます。被害者はめった刺しにされた。ですが、鑑識の結果では凶器は刃物のようなもの、としか出ていない。つまり凶器が刃物でない可能性も出てくる」
「え……そんなのめった刺しにされてたらわかるわけないじゃない」
「全部同じ場所にさせる人がいたら、その人はプロだと思うけど?」
あ、そっか。
何度も何度も刺して、全部が全部同じ場所とは限らないわよね。
「故に私はこう考えた――氷をナイフ状にしたものが犯人の凶器である、と」
「はははっ! 君、推理小説の読みすぎだよ。そんなもの、普通の人間には作れるはずがない」
「時に、大家さん。あなたの友達は、確か彫刻をやっていましたよね?」
「ええ……」
「つまり、私が犯人とした、そこの彼女は彫刻をやっているので犯行が可能だ」
「ふむ、実に興味深い“想像”だが、生憎と証拠がないね」
そうよ……証拠。
確かにここまで来たら私も梓が犯人だって信じるけど、そんなんじゃ警察は動かないわ……。
どうする気なのよ?
「根拠その3――――」
そう言ってあいつが取り出したのは――――水筒。ちょっと小さくて、女の人向けっぽいやつ。
「氷のナイフには一つ欠点がある。それは溶けてしまうことだ。これに入れておけば長時間保管でき、かつ目立たない」
「――……それが、私のじゃなかったら?」
梓が辛うじて反論するが、あいつは気にせずに言った。
「実はこれ、大家さんの部屋に隠してあったのを見つけたやつさ。関連性が無くて押収されてなかったみたいだね。そこで俺はこう考える。凶器をほかの包丁と一緒に仕舞える人間が、もっと重要性の高い証拠品を見つかりやすい場所に隠すか? ってな。つまり犯人が大家さんだと矛盾するんだよ。行動が、な」
刑事さんは白い手袋をはめた手でそれを受け取って、ビニール袋に仕舞った。
証拠品って考えてくれたんだ……!
「以上……何か反論はあるか?」
「……っはぁ…………薫に紹介しなきゃよかった。明智探偵事務所」
その時の、彼女の顔が忘れられなかった。
諦めたような、安心しているような、不思議な表情だった。
数日後――
「こんにちは……」
「いらっしゃい、大家さん」
明智探偵事務所には、あいつしかいなかった。
「あの、お礼の件……家賃2か月分で手を打つので。再来月以降はしっかりと払ってくださいね?」
「チッ……もうちょっとくれたってよかっただろうが…………」
「いくら年上でも、怒りますよ?」
と、私が言うと、あいつはなぜか驚いたような表情をしていた。
「年上? 冗談、俺は15ですよ。つい先日高校を中退したばかりの、ニートです」
「ええっ!? せ、先日って……」
「あの事件を解決した後、退学届けを出してきた。あんたのおかげで探偵できそうだって思ったから」
高校中退ってことは、学歴的には……中卒!?
そんなドラマじゃあるまいし――
いや第一、私があんなこと依頼しなきゃ……辞めてなかったってことよね?
嘘……それじゃ私、何てことを…………。
「ちょ今すぐ撤回してきなさいよ! 今ならまだ間に合うわよ!」
「断る。もうあんなとこ行くのはうんざりだし、それにあんたは俺の保護者じゃないだろ?」
「うるへー! 今からだって私が保護者になったるわ! 私があんたの姉よ!」
そして現在――
はぁ……最っ悪。なんで思い出しちゃったのかしら?
でも、なんだか吹っ切れそう。
このままあいつとの思い出は胸に仕舞って。第二の人生を送ろう。別人になったつもりで。
「――失礼いたします。お嬢様にお客様です」
「は、はいっ。どうぞ……」
えー―――?
何であいつがここにいるのよ?
メイドさんにつれられてはいってきたのは、小五郎だった。
刑事さん達は冷静だったけど、梓は違った。
悔しそうに歯を食いしばり、すごい目つきで睨み付けていた。
「――失礼ですが、君は?」
紳士そうな刑事さんが訪ねる。
「あ、ワタクシこういう者でして」
あいつはしっかりと名刺を渡している。意外と私より年上なのかも……。
「ふむ……私立探偵、明智 小五郎……」
「小五郎です。今回は、依頼主の無罪を証明してほしい、という依頼を受けてやってまいりました」
しょうごろう……。すっごい紛らわしい名前なのね、彼。
「無実?」
「ええ、あそこの彼女……の無罪です」
そういや名乗ってなかったわね……。
私は会釈して病室に入った。その瞬間、梓が目をそらした。後ろめたいんだ。
「と、言うと?」
「彼女はとある殺人事件の容疑者、とされていると聞いています」
「……」
「ですが話を聞いた限りでは、違った――――おそらくそこの……名前は忘れましたが、彼女が犯人だと私は考えているんです」
刑事さんの表情は動かなかった。信じていないんだ、あいつの事。
「根拠は3つ。1つ、凶器とされる刃物についた血痕。話を聞く限りだと……端っこに少しだけ血がついいていた、ということですが、合っていますか?」
「…………」
「その前提で進めると、矛盾がある。被害者がめった刺しにされたのに血が付いてなさすぎるんですよ」
「……犯人がふき取ったのではないかな?」
「逆に聞きますが、感情的に人を殺した人間が、真っ先に、そして丁寧にナイフを拭けますか? ナイフを持って帰ろうとは思っても、すぐさまふき取ろうって考えないと思いますよ」
「それはあくまで君の主観的な意見だね」
刑事さんの言う通りだ、今言っていることは全部あいつの推理――考え。
視野が狭い、とか、言われるだけで崩れてしまう、弱い仮説?でしかないのよ。
どうやって、残りのことを証明するつもりなんだろう……?
「とりあえず、私の主観的な意見を聞いていただきたい。二つ目の根拠として、犯行方法を挙げます。被害者はめった刺しにされた。ですが、鑑識の結果では凶器は刃物のようなもの、としか出ていない。つまり凶器が刃物でない可能性も出てくる」
「え……そんなのめった刺しにされてたらわかるわけないじゃない」
「全部同じ場所にさせる人がいたら、その人はプロだと思うけど?」
あ、そっか。
何度も何度も刺して、全部が全部同じ場所とは限らないわよね。
「故に私はこう考えた――氷をナイフ状にしたものが犯人の凶器である、と」
「はははっ! 君、推理小説の読みすぎだよ。そんなもの、普通の人間には作れるはずがない」
「時に、大家さん。あなたの友達は、確か彫刻をやっていましたよね?」
「ええ……」
「つまり、私が犯人とした、そこの彼女は彫刻をやっているので犯行が可能だ」
「ふむ、実に興味深い“想像”だが、生憎と証拠がないね」
そうよ……証拠。
確かにここまで来たら私も梓が犯人だって信じるけど、そんなんじゃ警察は動かないわ……。
どうする気なのよ?
「根拠その3――――」
そう言ってあいつが取り出したのは――――水筒。ちょっと小さくて、女の人向けっぽいやつ。
「氷のナイフには一つ欠点がある。それは溶けてしまうことだ。これに入れておけば長時間保管でき、かつ目立たない」
「――……それが、私のじゃなかったら?」
梓が辛うじて反論するが、あいつは気にせずに言った。
「実はこれ、大家さんの部屋に隠してあったのを見つけたやつさ。関連性が無くて押収されてなかったみたいだね。そこで俺はこう考える。凶器をほかの包丁と一緒に仕舞える人間が、もっと重要性の高い証拠品を見つかりやすい場所に隠すか? ってな。つまり犯人が大家さんだと矛盾するんだよ。行動が、な」
刑事さんは白い手袋をはめた手でそれを受け取って、ビニール袋に仕舞った。
証拠品って考えてくれたんだ……!
「以上……何か反論はあるか?」
「……っはぁ…………薫に紹介しなきゃよかった。明智探偵事務所」
その時の、彼女の顔が忘れられなかった。
諦めたような、安心しているような、不思議な表情だった。
数日後――
「こんにちは……」
「いらっしゃい、大家さん」
明智探偵事務所には、あいつしかいなかった。
「あの、お礼の件……家賃2か月分で手を打つので。再来月以降はしっかりと払ってくださいね?」
「チッ……もうちょっとくれたってよかっただろうが…………」
「いくら年上でも、怒りますよ?」
と、私が言うと、あいつはなぜか驚いたような表情をしていた。
「年上? 冗談、俺は15ですよ。つい先日高校を中退したばかりの、ニートです」
「ええっ!? せ、先日って……」
「あの事件を解決した後、退学届けを出してきた。あんたのおかげで探偵できそうだって思ったから」
高校中退ってことは、学歴的には……中卒!?
そんなドラマじゃあるまいし――
いや第一、私があんなこと依頼しなきゃ……辞めてなかったってことよね?
嘘……それじゃ私、何てことを…………。
「ちょ今すぐ撤回してきなさいよ! 今ならまだ間に合うわよ!」
「断る。もうあんなとこ行くのはうんざりだし、それにあんたは俺の保護者じゃないだろ?」
「うるへー! 今からだって私が保護者になったるわ! 私があんたの姉よ!」
そして現在――
はぁ……最っ悪。なんで思い出しちゃったのかしら?
でも、なんだか吹っ切れそう。
このままあいつとの思い出は胸に仕舞って。第二の人生を送ろう。別人になったつもりで。
「――失礼いたします。お嬢様にお客様です」
「は、はいっ。どうぞ……」
えー―――?
何であいつがここにいるのよ?
メイドさんにつれられてはいってきたのは、小五郎だった。
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