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その4 本物っぽいのが出てきやがった
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○○○
二年前――
「――ええ、と。あなたが……明智 五郎さん、ですよね」
「ああ、いくらで貸してくれる?」
この人、苦手なタイプの人かも。
こんなにぐいぐい来られたら、ペースを乱される。コミュニケーションがとりにくいし。
「その前に! あなたが行っている事業を教えてください。私は、非合法なことに加担するつもりはありませんので」
「うーん……しいて言えば、探偵業だ」
「具体的に……年収は――――」
「はぁ……疲れた」
私は今日の晩御飯を作りながらため息をついた。
「どうだったの? 契約は」
「するわ。いい人そうだし、悪くないかなって」
梓はなぜか上機嫌で彫刻の練習をしている。やっぱり、自分が選んだところを私が採用したからかしら。
ぼーっとしながら食材を切っていたら、思いっきり指を切ってしまった。
「い――――った!」
っばんそうこうばんそうこう!
じゃないまずは止血よ! まな板と包丁が血で染まっちゃってる。でも切ったところが悪かったみたいで、押えててもなかなか止まってくれない。
「全く……そそっかしいんだからっ! はい」
やけに焦った様子で、梓は傷口の手当てをしてくれる。そんなに流血したかな……?
少なくとも、まな板も包丁も、洗いなおさなきゃ……。
数週間後――
私は家賃を回収していない最後のテナント――明智探偵事務所のインターホンを押した。
「すいませーん。明智さん御在宅ですか?」
ドアをノックしながら問いかけた。
でも中から反応は無い。おかしい……ここに住むって言ってたから出かけてるなんてことはそうそうないはずのなのに……。
「明智さーん!?」
「……はい?」
ドアが開いて出てきたのは、中学生? か高校生くらいの子。少なくとも私よりは年下の子……だと思う。
「あの……息子さんですか?」
「はい。父に何か用ですか?」
「ええ……今月分の家賃が未納なので、催促に」
息子さんは、めんどくさそうに欠伸をしていった。
「今、父は外出中です。後でまた来てください」
結局、その日は支払ってもらえなかった。
次の日――
「明智さーん!」
居留守を使われた。
その次の日――
「いますかー!?」
いなかった
そのまた次の日――
「家賃払ってくださーい!」
払ってくれなかった。
そのまた次の次の日――
「……………………!!」
むかついたのでピンポンダッシュした。
一週間後――
「っいい加減家賃払いやがれ! このクソ親子が!」
私はむかついて探偵事務所のドアを蹴飛ばした。
まぁまぁ痛かった。
一人で悶絶していると、後ろから声をかけられた。
「――小林 薫さんですね?」
「っはい」
少し小太りな、背広を着た人だった。警察手帳を見せてきたから、多分刑事さんなのかも。
「あなたに殺人事件の容疑が掛けられています……署までご同行願えますか?」
「え……?」
殺人? 私が?
「それと、あなたの家も、捜索させていただきます」
刑事さんは背広の内側から封筒をのぞかせた。捜査令状だ、ドラマで見たことある。
「ま、待ってください! 私は何も――」
「詳しい話はまた後程、さぁどうぞ」
どうして? 私はずっと、大学にいるとき以外はこの明智探偵事務所を訪ねていたし……。
それに身に覚えもない!
「――では、話を整理しましょう。あなたは1週間前、大学のキャンパスで神野 拓也さんと一緒にいた。そうですね?」
「え、ええ……たまたま講義で会ったので」
「そしてその後、口論となり、カッとなって殺害に至った。と、我々は考えています」
「だから口論なんてしてませんし殺してなんかいません!」
「ではこの、血の付いた包丁はどう説明するっていうんです?」
この前、私が指を切った時の包丁の写真を見せてきた。
「それは……この間料理しているとき指切ってしまって……」
「嘘はよくない。間もなく鑑識の結果が出ますよ……あなたも、ご存知でしょう? いくら血痕をふき取った所で、特殊な処理をすればすぐにわかるのですよ」
ええ出ますとも! 私の血がたっぷりと降りかかりましたからね!
私がだんまりを決め込んでいると、取調室に書類を持った人が入ってきて、刑事さんに書類を渡す。
「ふふふ……出ましたよ。結果が――――どれどれ、採取された血痕の鑑定結果は! 被疑者のものと一致しな――――え?」
「だから言ったでしょ!? 指切って血が降りかかっちゃったって! 刑事さん耳聞こえてます!?」
「あ……でも、目撃証言あるし」
「アリバイ、証明できますよ?」
「……分かりました、今日の所は、釈放しましょう……」
次の日――
「……いい加減出てきなさいよ! 私の人生がかかってるのよ!? はやくぅぅっ!」
私は狂ったようにインターホンを鳴らし続けた。居留守なんて使わせてやるもんですか!
「ううーっみぎゃっ!」
勢いよくドアが開いてノブがお腹にめり込んだ。結構痛い。
「……今日も、家賃の催促ですか?」
運が悪い。息子さんの方じゃ意味がないのに……いや、あるわ。アリバイを証明してくれればそれで。
「違います。私個人からのお願いがあるんです」
「……わかりました。入ってください」
息子さんは、あっさりと家の中に招待してくれた。
二年前――
「――ええ、と。あなたが……明智 五郎さん、ですよね」
「ああ、いくらで貸してくれる?」
この人、苦手なタイプの人かも。
こんなにぐいぐい来られたら、ペースを乱される。コミュニケーションがとりにくいし。
「その前に! あなたが行っている事業を教えてください。私は、非合法なことに加担するつもりはありませんので」
「うーん……しいて言えば、探偵業だ」
「具体的に……年収は――――」
「はぁ……疲れた」
私は今日の晩御飯を作りながらため息をついた。
「どうだったの? 契約は」
「するわ。いい人そうだし、悪くないかなって」
梓はなぜか上機嫌で彫刻の練習をしている。やっぱり、自分が選んだところを私が採用したからかしら。
ぼーっとしながら食材を切っていたら、思いっきり指を切ってしまった。
「い――――った!」
っばんそうこうばんそうこう!
じゃないまずは止血よ! まな板と包丁が血で染まっちゃってる。でも切ったところが悪かったみたいで、押えててもなかなか止まってくれない。
「全く……そそっかしいんだからっ! はい」
やけに焦った様子で、梓は傷口の手当てをしてくれる。そんなに流血したかな……?
少なくとも、まな板も包丁も、洗いなおさなきゃ……。
数週間後――
私は家賃を回収していない最後のテナント――明智探偵事務所のインターホンを押した。
「すいませーん。明智さん御在宅ですか?」
ドアをノックしながら問いかけた。
でも中から反応は無い。おかしい……ここに住むって言ってたから出かけてるなんてことはそうそうないはずのなのに……。
「明智さーん!?」
「……はい?」
ドアが開いて出てきたのは、中学生? か高校生くらいの子。少なくとも私よりは年下の子……だと思う。
「あの……息子さんですか?」
「はい。父に何か用ですか?」
「ええ……今月分の家賃が未納なので、催促に」
息子さんは、めんどくさそうに欠伸をしていった。
「今、父は外出中です。後でまた来てください」
結局、その日は支払ってもらえなかった。
次の日――
「明智さーん!」
居留守を使われた。
その次の日――
「いますかー!?」
いなかった
そのまた次の日――
「家賃払ってくださーい!」
払ってくれなかった。
そのまた次の次の日――
「……………………!!」
むかついたのでピンポンダッシュした。
一週間後――
「っいい加減家賃払いやがれ! このクソ親子が!」
私はむかついて探偵事務所のドアを蹴飛ばした。
まぁまぁ痛かった。
一人で悶絶していると、後ろから声をかけられた。
「――小林 薫さんですね?」
「っはい」
少し小太りな、背広を着た人だった。警察手帳を見せてきたから、多分刑事さんなのかも。
「あなたに殺人事件の容疑が掛けられています……署までご同行願えますか?」
「え……?」
殺人? 私が?
「それと、あなたの家も、捜索させていただきます」
刑事さんは背広の内側から封筒をのぞかせた。捜査令状だ、ドラマで見たことある。
「ま、待ってください! 私は何も――」
「詳しい話はまた後程、さぁどうぞ」
どうして? 私はずっと、大学にいるとき以外はこの明智探偵事務所を訪ねていたし……。
それに身に覚えもない!
「――では、話を整理しましょう。あなたは1週間前、大学のキャンパスで神野 拓也さんと一緒にいた。そうですね?」
「え、ええ……たまたま講義で会ったので」
「そしてその後、口論となり、カッとなって殺害に至った。と、我々は考えています」
「だから口論なんてしてませんし殺してなんかいません!」
「ではこの、血の付いた包丁はどう説明するっていうんです?」
この前、私が指を切った時の包丁の写真を見せてきた。
「それは……この間料理しているとき指切ってしまって……」
「嘘はよくない。間もなく鑑識の結果が出ますよ……あなたも、ご存知でしょう? いくら血痕をふき取った所で、特殊な処理をすればすぐにわかるのですよ」
ええ出ますとも! 私の血がたっぷりと降りかかりましたからね!
私がだんまりを決め込んでいると、取調室に書類を持った人が入ってきて、刑事さんに書類を渡す。
「ふふふ……出ましたよ。結果が――――どれどれ、採取された血痕の鑑定結果は! 被疑者のものと一致しな――――え?」
「だから言ったでしょ!? 指切って血が降りかかっちゃったって! 刑事さん耳聞こえてます!?」
「あ……でも、目撃証言あるし」
「アリバイ、証明できますよ?」
「……分かりました、今日の所は、釈放しましょう……」
次の日――
「……いい加減出てきなさいよ! 私の人生がかかってるのよ!? はやくぅぅっ!」
私は狂ったようにインターホンを鳴らし続けた。居留守なんて使わせてやるもんですか!
「ううーっみぎゃっ!」
勢いよくドアが開いてノブがお腹にめり込んだ。結構痛い。
「……今日も、家賃の催促ですか?」
運が悪い。息子さんの方じゃ意味がないのに……いや、あるわ。アリバイを証明してくれればそれで。
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