BUZZER OF YOUTH

Satoshi

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第2章 インターハイ〜

第146話 振り払う

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前半終了

洛阪    62
星垓    41












山下「第1Qの5点差からあっという間に20点以上の差が…」








村上「星垓からしたら長い長い10分だったろうな」







山下「やはり王者…決勝は愛和と洛阪で決まりですかね」






村上「うむ…」


















ザワザワ…











この日の最終試合、登場は優勝候補筆頭の洛阪ということもあり、注目度は高かった1戦。













だが蓋を開けてみれば、下馬評となんら変わらぬ展開。













観客とは、残酷である。











時には挑む側の味方をするが、王者が順当に決勝まで行くことも望んでいる。









だからこそ第1Qの星垓の善戦には拍手も起こり、応援する場面もあった。









しかも星垓には1年生の世代でも飛び抜けて注目度の高い北条がいたのだ。
接戦を望む声は多かった。












しかしその北条は、前半で12得点。
加えて1アシスト、3リバウンド、1ブロック。











ルーキーとしては立派な数字である。
それも、高校屈指のディフェンダー、田村にマークされて、である。









しかしチームのエースとしては、やや物足りない数字であるのも確かだった。













対する洛阪・高松は25得点、2アシスト、5リバウンド、1ブロック。












その差は、明らかだった。












-洛阪・ロッカールーム-










吉永「順調だな」




塚森「はい」






吉永「明日も試合だ。第3Qもこのまま行って相手の心が折れたなら…控えを試すか。
色んなパターンを試したいからな、積極的に交代して行くぞ」






洛阪メンバー「「「はい!」」」







吉永「まあ、だからと言って点差にかまけたプレーをされては困るがな」






高松「心が折れるようなタマですかね、星垓は」






大谷「でも今21点差だろ?30点開けば流石に諦めるんじゃねえか?」





笹本「そっすよね…漫画みたいに格上に20点差逆転して、みたいな劇的なストーリーは早々ないっすよ」





高松「…笹本」








笹本「…はい?」





笹本、高松の声の低さに一瞬ビクッとする。










高松「まだ勝ってねえんだぞ、試合の半分しか消化してない」









笹本「…はい」









高松「お前らも肝に銘じとけ。洛阪のプレイヤーなら甘ったれた事を考えるな。試合終了のその時まで勝ったなんて思うんじゃねえ」








田村「お、おう…」














吉永「…」
(いつになく集中しとるな…点差がついて弛むかと思ったが要らん心配だったか)


















-一方、星垓のロッカールーム-









接戦だった過去3日間と違い、ロッカールームに活気はない。












誰も言葉を発さない。











聞こえるのはコートに立っていたメンバーの荒めの呼吸と、水分補給の音くらいである。










唐沢「…」
(洛阪が強い事はわかっていたが…こんなにも差があるなんて…)












新城「強えな…」











新城が沈黙を破る。












新城「舟栄も北陵も豊誠学園も強かったけど…洛阪はそれ以上だ。特に特別な策も使わず普通にしててあれだけ強いなんてな」








唐沢「…そうですね、私のミスです。相手のやり方でまともに戦ってしまった。
けれどどんな策を用いても、後出しですぐに対応されてしまい手詰まりになったら…と二の足を踏んでしまいました」






髙木「監督…」







慎太郎「でも現にマッチアップゾーンもそこまで機能しませんでしたよね。陣形整える前に速攻やパス&ランのアーリーオフェンスで崩されて」







涼真「でも洛阪のディフェンスって言ったってハーフで41点も取れるもんなんだな」









一同「「!?」」












涼真「洛阪は県予選はもちろん、このインターハイ本戦で最高でも昨日の72失点、前半では最高でも30失点もしてない。
ましてや、前半で30点以上取れたのは京都府決勝の嵐山と、茨城カップの舟栄と北陵だけだ」







真田「お前何でそんなこと知って…」











涼真「昨日のビデオで思いっきり流れてたじゃないっすか」









新城(そうだっけ?)←点数まで見てなかった人





髙木(いや、俺もそこまでは…)












涼真「俺達も何もできない訳じゃない。ちゃんと戦える。
だったら!勝負がつくまで何度でもやれる事をやればいい!」









神崎「つったってなあ…」










涼真「相手が前半で21点差をつけたなら、こっちだってやれないことはない。
相手に合わせるんじゃなく、今の星垓のフルパワーを出す事を考えましょうよ」









『敗北』の2文字に支配されていたロッカールームの中で、涼真はただ1人燃えていた。









無論、前半抑え込まれた事を考えればここから逆転するのは絶望的である。






ましてや相手は格上。












涼真「監督、作戦を」


















それでも尚、涼真の目は死んでいなかった。

















-コート及び観客席-












本日の最終試合である為、コートはがらんとしている。











そしてハーフタイムも残り少なくなり、両チームのメンバーが徐々にコートに戻ってくる。










試合再開までシュートを打つメンバーも。












村上「む…」









山下「どうしました?」








村上、洛阪のベンチを指さす。








そこにはユニフォームの上からTシャツを着てベンチで談笑する高松と大谷。








村上「試合再開間近になっても用意する様子がない。選手交代があるかもしれんな洛阪は」










ブーッ!!












後半開始まで残り30秒。













ユニフォーム姿の両チームの10人がコートへ。













洛阪

G  #4   塚森 隼人  3年 182㎝
G/F #7   矢ヶ崎 佑  3年 186㎝
F  #13 神津 雅也  1年 190㎝
C/F #6   田村 大和  3年 195㎝
C  #12 佐久本 哀斗 2年 199㎝



星垓

G  #4   新城 敦史  3年 184㎝
G/F  #9   真田 直斗  2年 183㎝
F  #10 北条 涼真 1年 187㎝
F  #8  神崎 健太  2年 190㎝
C  #7  髙木 悠介  3年 198㎝
















村上「やはり交代か」








山下「片やいつものスタメンに戻してきた星垓、片や点差に余裕ができて控えを出している洛阪、ですか」













春香「あの高松さんが下がって控えの選手が出てきたね」



小春「よーし!追い上げだー!」





優花「中山君は下げられちゃったね」





美保「仕方ないよ、ディフェンスは神崎先輩、スリーは真田先輩が必要だし、3年生の2人は外と中の要だし、北条君はエースだもん。慎太郎君がそこに割って入れる信頼を皆から得るしかないよ」







優花「うん…そうだね」
(とかいいつつ残念そうな顔しちゃって…)










満月「中山君には悪いけど、いつものこのメンバーでなら何か起こせるかもしれないね」
















洛阪のスローインから後半がスタート。













塚森「…ん?」











塚森、何かに気づく。











塚森(これはもしかして…)








塚森、左ウイングの矢ヶ崎にパス。










すぐさま矢ヶ崎に向かって走り、ハンドオフでもう一度ボールを受ける。











塚森(やっぱりな、マッチアップゾーンだ)





そして塚森、ドリブルでトップに戻りながら指を4本立てる。





塚森「4番!」













新城「なに…?」
(初っ端からデザインプレー…?)








塚森の手を見て、残りの4人が動き出した。









佐久本がハイポストへ上がり、その脇を矢ヶ崎が駆け抜ける。





ボールは矢ヶ崎へ。






ボールを捌いた塚森は神津と場所を交代する。






佐久本は田村とポジションを入れ替える。






洛阪の5人が目まぐるしく動く。






その間、ボールは止まる気配無し。






星垓のディフェンスが揺さぶられ徐々にバランスを崩す。







「何だあれ!?人もボールも止まらねえ!」






「すげえパスワークだ!!」







真田(なんだこれは…どこから来る?どこにボールがあってどこに行く…?)




そして…何本目かのパス。







バシッ!!






ハイポストの佐久本にボールが入った。





髙木がすかさずチェック。後方にいた神崎もヘルプで警戒する。







24秒タイマーのカウントダウンが始まっている。







24秒タイマー残り3秒。






佐久本は左45°のアウトサイドにボールを展開した。








バシッ!







塚森が受け取った。








そして、星垓の選手は誰もそこにいなかった。







「あああ!!!」





新城「しまった…」
(よりによって塚森をノーマークに…)









洛阪のデザインプレーにより、塚森が完全フリーとなった。








星垓のマッチアップゾーンは、知らず知らずのうちに右サイドに5人とも寄せられていた。













洛阪メンバー「「「スリー…!!!!」」」













ビッ!














ブーッ!!!














24秒タイマーが0になる一瞬前に、塚森の手から放たれたスリーが…


















スパァッツ!!!










洛阪メンバー「「「イェース!!!!!」」」










綺麗にリングを通過した。













第3Q 残り9:36

洛阪    65
星垓    41











洛阪、最初の攻撃を成功。
それも、時間をじっくり使ってから、最後はキャプテン・塚森のスリーで。













山下「な、なんだったんでしょう今のは」








村上「後半いきなり凄い物を見せられたな」
(メンバーが変わってもあんなデザインプレーができるのか…?)












大谷「まずは成功だな。でもあの一瞬でよく塚森はディフェンスを把握したよな。マッチアップゾーンとマンツーマンって区別がつきづらいのに」










高松「星垓がいつもやるマンツーマンのマーク確認しなかったからな」










大谷、はっとする。










大谷「そういえば…」












高松「塚森は一見マンツーマンに見えるディフェンスながらマーク確認しないのを見てマッチアップゾーンの可能性に気づいたんだろう。後は少しボール動かして最終確認だ」







大谷「まあ、その後のセットオフェンスに今のゾーンやマッチアップゾーン用のデザインプレー指示するあたりがえげつないけどな」










コートでは星垓のオフェンスが始まっている。












洛阪のディフェンスはマンツーマン。







新城に塚森




真田に矢ヶ崎




神崎に神津





涼真に田村





髙木に佐久本というマッチアップ。











新城(なるほど、涼真の所は放っておけないか)













後半開始早々、出鼻をくじかれた星垓。







バチン!!





涼真、両頬を両手できつけのように叩く。






涼真(やってやる…)










『敗北』の2文字を振り払うべく、勝負は後半の20分へ。















……To be continued
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