ガーディストベルセルク

ぱとり乙人

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候補生金刃乱、誕生

悪夢の帰り道④

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 左手に衝撃が走ったのはわかった。
 でも、その衝撃が何を意味しているのかまで理解するのには少しのタイムラグがあった。
 再度左手を確かめてみる。
 特に衝撃を感じたのは左手上腕部だ。制服に穴が開いていて、どうやらそこは吹き抜けになっている。
 何故か。その開いているから地面が覗き見えるからだ。
 しかし、それはおかしいのである。何故ならこの制服を着込んでいるのは紛れもなく僕自身なのだ。
 つまり、この穴の開いた制服の左手部分には僕の腕があるはずなのだ。
 ならば、どうして地面が左手上腕部から見えるのか?どうしてだ?
「……ッッ!?ギャアアアアアアアッ!?!?!!?!」
 バカか!?どうしてもこうしてもない!!死ぬ程痛い!!焼け付く程熱い!!が漏れそう!!
 人生で経験した事のない痛みに脂汗と涙と鼻水が滝のように流れ出し、丘の上に僕は打ち上げられた魚のようにその場でのた打ち回った。
 これでようやく理解する自分の頭の回転の遅さに心底腹が立つ。脳への反応も遅いせいか、ようやくボタボタと風穴の開いた左腕から鮮血が流れ落ちてくる。
 被弾した。撃たれたのだ。余りの痛みに身体が痙攣しだし、二度と立ち上がれる気はしない。このまま地面に突っ伏して地面と同化していたい。それで痛みがおさまるのであれば。
「おっ……お!?なんだよお前!?全然効いてんじゃねーか!!へへへへ!!」
 耳障りな声がつんざくように聞こえてくる。
「イ、イヤッ!?大丈夫ですか!?」
「……っくぁ!ハァッ……ハァッ!!?……ダイ……ジョ…なわけ……ッ!!!!!」
 心配してくれた彼女が身体に触れてきた。その優しさが今は辛いのだ。変に触らないでくれ。傷口に響いて痛んだよ!!大声でそう言ってやりたかった。酷い言いようなのはわかっている。だがこれは正に死活問題である。というか意識が朦朧としてきた。とにかく今彼女に言える事を伝えなければなるまい。
「……逃げ、ろ。」
「え?」
 あぁ……もう!!察しが悪いなぁ!?僕は息を大きく吸い込んで、もう一度言う。
「逃げろって言っているんだよ!!もうすぐ母さんが来るから!それまで出来るだけ遠くに逃げろよ!!」
「で、でも!!」
 頭の中でぷちんと切れる音が聞こえた。おかしいな。他人に滅多にキレた事ないんだけどね。この時は痛みで沸点も低かったのだろう。
「いいから逃げろよ!!お前が助からないと僕の来た意味が無くなるんだよ!!僕の事なんか放っといてさっさと行け!!このバカ!!」
「…ッッッ!?」
 僕に気圧されたのか、少し怒りと悲しみの表情を滲ませながらも、彼女は立ち上がった。
 そして。
「どうか死なないで!お礼がしたいから!」
 そう言って猛ダッシュで走り出した。それでいい。そんでもってさ。
「へへへへ!!俺がそれを逃がすと思ってんのかバーカ。」
 しかと走り去ろうとしている彼女の背中に指鉄砲を突きつける。そりゃ犯人さんもそうなりますよね。だからこそ、ね。
「は、ははっ!あんたの撃った弾さ?あんまりに遅すぎちゃったもんだから当たっちゃったよ!全くショボいんだもんなぁ!チンケなガイストなだけあるよ!」
 右手のみで身体を支えながら、生まれたての小鹿の如くガクガクと両脚を震わせて僕はなんとかして立ち上がった。同時に左手から重力に負けて血が滴り落ちていく。
「……あ?チンケだと?」
 銃口がサッと僕の方に向く。いやー本当にあなたの煽り耐性の低さ、非常に助かります。
 気絶しそうな僕の頭でも出てくるような口上で意識を向けてくれるんだからさ。
 次いでだから地雷踏み抜いてやろうっと。
「あぁ。だってそうだろう?無抵抗の人にしか余裕を持って銃口を突きつけられないなんてさ?要は不意打ちとかそういう場面でないと真っ向勝負出来ないガイストだって言っているようなもんじゃないか。」
「ムカツクヤローだな?そのチンケな能力に左手ブチ抜かれたお前はもっとチンケだろうが。負け犬がほざくな。」
「……負け犬ねぇ?あんたさっき言ってたな?即刻死刑対象だって。……あんた、そのガイストさ?元々から持ってないよな?」
「……。」
 黙り込んだ。図星ですね。分かりやすいなぁ本当に。
「どうせどこの誰だかも分からない人とつるんで手に入れたんだろうけどさ。本当に悲しいよね?だって生まれながらにしてガイストを持っていないなんてさ?そして公に支給されるガイストでは適応もしなかった訳だ。おかげで社会的には底辺も底辺扱い。安い給料で大していい事もなく、自暴自棄になって危険な橋を渡ってまで自分が使えるガイストを手に入れて、最初にやった事は銀行強盗と傷害事件。どう?僕の推測に何か間違いでもある?」
「……黙れ。」
 いいや。黙りませんよ。
「全く絵に描いたような落ちこぼれ人生だよね?あんたみたいな人がガイストを使えるようになっても、結果は同じ。まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようにはしゃいで迷惑かけていくだけ。実際にそうだろ?それにこんな事をしたって幾分か気は晴れるだろうが、今の世の中のカーストは変わりしない。ガイストの能力による優劣は絶対だ。裏の社会に仮に生きていくとしても後ろ指を差されて言われるんじゃないか?」
 僕は右手の人差し指を突き出しながら答える。
「『元々ガイスタードだった奴がちょっと使えるようになったからっていい気になっているだけの小物』ってさ。」
「死ね。」
 パシュッという発射音が聞こえた。さてと、これで僕の物語は終わり。彼女のお礼とやらも貰えず、か。
 ……あ、香典の事だったのかな。彼女に関して言えばちょっと多めに出して欲しいかなととんでもない邪な心が湧いて出てくる。
 それにしても、短い人生だったなぁ。享年15歳。振り返ってみると色々な苦労があった。
 ……主に姉さん絡みだが。でも特に高校入学してからの苦労が……ってほんの数日じゃないか。
 それにしても、この犯人には少し同情はしてしまう。さっき言った言葉のほとんどは、僕に対しても当て嵌まる事だったし。
 ガイストによる優劣が絶対の世の中で、僕もガイスタードとして暮らしていく事になったらこうなってしまうのだろうか。他人と常に比較され、蔑まれ、心身共に衰弱していく。
 社会とはそういうものだとは思う。でも、現在のパワーバランスは目に見えて不均衡である。こういう人を生み出しているというのを間近で見られたのだから尚更だ。
 これを機に少しでもガイスタードに目を向けて……いたらこんな事にならなかったのだろうけど。
 あぁ、寒気がやってきた。とうとう死ぬんだ。死因は出血多量による失血死か。ないしは今向かってきている弾丸で急所を撃たれて即死か。まぁどっちでもいいや。
 しかし、痛みはほとんど無くなってきたな?血もそんなに流れて……ない……。
「……ちょっと遅くない?」
 血が流れ出ているはずの左手の患部を見て、僕は呆れ顔で呟いた。
「……後で精一杯の謝罪をさせて下さい。とにかく待たせてしまって申し訳ありません。」
 僕の患部周りを、何時の間にか透き通った氷の塊が覆っていた。そのおかげで完璧に止血されており、痛みも氷の冷たさのせいか麻痺していて感じなくなっていた。
「一先ずの応急処置になります。すぐにので、そこで休んでいて下さい。」
「はいよ……じゃあ頼んだよ。……母さん。」
 僕の目の前に特大の氷壁が一瞬にして現れ、僕に命中するはずだった不可視の弾丸がバキャッと音を立てながらその壁にめり込んで止まった。
「は、は!?なんだ、なんだよ!?どうなってんだよ!?」
「貴様の処罰の時が来たというだけだ、外道。」
 犯人が顔を上げた。氷壁の上には……誰かが立っていた。
「あ……あぁあ……。」
「大空弾だな……?それだけ確認出来れば私から言う事は何もない。法令により貴様の処刑を執り行う。大人しくすれば早く済む。しなければ早くは済むが苦しいだけだ。どうする?……と……言いたい所だが!!」
 語気が強まり、空にはゴゴゴゴと轟音を鳴らしながら暗雲が立ち込め、猛吹雪が吹き始めた。
「よくも愛する私の息子をこんなにも傷つけてくれたな……!?貴様はただでは殺さない!!恐怖と絶望に溺れさせて苦悶の顔を見ねば気が済まない……!!いやそれでも足りない!!覚悟しろ……!!この私を本気で怒らせたらどうなるか、その身でもって思い知れ!!」
 母さんはこめかみに青筋を立てながら怒り狂っていた。とりあえず僕はまたしても九死に一生を得た訳である。
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