ガーディストベルセルク

ぱとり乙人

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氷雅姫(ひょうがき)、到来

束の間の安息③

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「……という事です。……乱さん、聞いていましたか?」
「え?……あ、ごめん……。」
 色々あった事を振り返っていたら、せっかくの母さんの話を丸ごと聞き逃してしまった。
 こんな時に過去に浸っている余裕なんてないはずなのに。
 母さんも少ししかめっ面になりながら溜息を吐く。誠に申し訳ございません。
「しっかりと集中してくださいね。私はいつまでもここに居る訳ではないのですから。では、最初から説明しますね。」
「……うん。」
 はてさて、何の話をしていたのか。
「この前に言った通り、エクトオーバーに関して言えば死亡事故は大幅減少しました。ですが、エクトオーバーによる後遺症や副作用に悩まされている人は大勢います。蔭原の場合は、『どれが分身なのか本物か判別が出来なくなり錯乱状態に陥る』というものです。だからあの子は常日頃からガムを常用しています。他の分身にはガムを嚙ませないようにして判別がつくようにしているのです。」
 めっちゃくちゃ大事な話だったよ。過去に気を取られている場合じゃなかった。
 ……にしても、だ。
「それなら、もっと分かりやすくすればいいんじゃないの?例えばオリジナルには目印になる帽子だったり、アクセサリーつけたり。」
 安直な回答であった事は認めるが、どうしても聞かざるを得なかった。
 母さんもその言葉に対しては一度だけ首を縦に振ると、再度口を開いた。
「一般的に過ごす分であれば、それでも十分でしょう。しかし、蔭原は元ガーディスト。あからさまな服飾雑貨では分身した時に敵に勘づかれてしまいます。そこでガムの方が都合いいのです。要は『何かを噛んでいるのがオリジナルである』と認識していればいいのです。『噛むふり』もすれば、更に敵を撹乱させられます。」
 そういう事か。すぐに能力が使用出来て、更に敵にバレにくいとなるとガムの方がいいという事か。
「『敵を撹乱する』という点で言えば、ガイストを使用する人の中で本来の能力を制限している『能力隠蔽』、通称『HTガーディスト』と呼ばれる人もいます。奥の手、というものですね。」
「HTの意味は?」
「Hidden Talentの略です。」
 安易で分かりやすい。助かります。
「またこれは知っているかもしれませんが、現在確認しているガーディストで、複数のガイストを使用できる人はいません。ポルターガイストにおいても同じですね。」
 まぁそりゃそうだろう。こんな力を複数も持っていたらチートだよ、チート。
「……更に無知をひけらかすようで申し訳ないですが、あんな後遺症や副作用が出る前に対策案とかないの?そんなになるまで能力使う必要なんてないよね?誰だって廃人になんてなりたくないし。」
 無言で僕を見つめる母さん。え?何?僕変な事言った?
「……乱さん。そういう訳にもいかないのですよ。」
「はい?どうして?」
 すぅっと浅い呼吸音の後、母さんのペンダントが多少光って見えた。
「……ガイストはエクトオーバーすればするほど、発動させる時のエクトプラズムの使用量が格段に減り、効率が上昇するからです。」
「……え。」
 なんですと……?
「……つまり……エクトオーバーすると廃人になる可能性はあるけど、その分個人の能力は上がるって事?」
「はい、その通りです。」
「……なんてタチの悪いシロモノなんだ……。でも、そこまでして能力を強くさせたりする必要ってあるの?」
「人の欲は尽きないものです。それにガーディストというのは身も蓋もないですが、能力が強ければ強い程良いものなのです。背に腹は代えられないのですよ。」
 ……ん?
 いや、いやいや!
 ちょっと待て!!それに関してはもっと聞かなきゃいけない事がある!!
「というか!思ってみたら母さんもエクトオーバーしているって事だよね!?」
「勿論です。」
「勿論ですじゃないよ!?身体大丈夫なの!?」
 急に背筋が冷たくなり、変な汗もかいてきた。国内で有数のガーディストである母さんが、エクトオーバーをしていない訳がない。
 母さんもそのうち蔭原先生みたいになってしまうのか……!?
 その言葉に対して、母さんが返してきたものは優し気な笑みであった。
「大丈夫です。身体的にも精神的にも問題ありません。これも言ったはずですが、後遺症や副作用が予期せぬプラス効果を生む場合もあると。」
「……あ、確かに。じゃあ母さんは……。」
「はい、一般的に見ればそちら側の人間です。」
「あーーーー良かった……。母さんがいなくなったら、姉さんを止められる人もいなくなるし……なにより父さんが寂しすぎて死んじゃうしね。長生きしてよ?」
「……はい、誰よりも長生きしますよ。」
 とにかくホッとしました。
「で、母さんの場合はどんな副作用なの?」
「それは言えませんね。」
「どうして?」
「息子に無駄な心配はかけたくありませんから。私の件はまたおいおい話す事にしましょう。」
「……むぅ。」
 可愛くもないのは自負しているが、少し顔を尖らせてアピールをしてみる。本当は何かとんでもない副作用があるのではないか?
「ふふふ。そう怒らないでください。本当に大丈夫ですから。それに本当に危険な状態であるなら、今も第一線で各国を飛び回ったりしていませんよ。」
「あ。」
 ……確かにそれもそうか。
「さて、という事ですのでもう一度問います。乱さんはガーディストを目指す予定はないのですね?」
「ないです!僕は安全に細々と生きていたいです!生きるか死ぬかの現場に行くつもりは全くありません!」
 手をはっきりと挙げて言う。この教室の生徒は僕しかいないんだけどね。
「宜しい。では当初の目的通り、『一年間を無事に過ごすだけ』を考えていきましょう。ただ、どちらにしても学内に関して言えばガイストを使用しなければならない時があると思います。その際はくれぐれもガイストの使い過ぎにご注意くださいね。その首輪自体に強制終了のシステムがついているのは理解していますが。」
 激しく首を縦に振る僕。あ、ちょっとぽきって言った。今後は控えよう。
「ちなみに、力の制御はある程度出来ているのですか?」
「うっ……。」
 痛い所に目をつけられた。流石ですね、母さん。
「その様子では、ON/OFFに加えて、大体50%くらいなら感覚として掴んでいる状態でしょうか?」
 この人凄すぎない?なんでそんな事まで分かるの?的確過ぎて逆に怖くなってきたんですけど。
「そうなんだよね。0か50か100。この3パターンしか今の所感覚が掴めなくて……。ちなみに50%でガイスト科の生徒に立ち向かったらどうなるのかな?」
「【特別指定生徒】以外なら、おおよそ木端微塵になって血の海が広がると予想されますね。」
 いやーん。退学は出来るけどそのまま刑務所行きになっちゃーう。
「なので、訓練をしましょう。学園内で被害を出さずにガイストを使用する方法。それは、これです。」
 母さんが少し自慢げにどこからともなく取り出した物。
 それは、紅く光沢がかった甘酸っぱいカレーの隠し味とかにも使われる、アレだ。
「……林檎……?」
「はい。名付けて『アップルで感覚を掴んでパワーアップル大作戦!』です!」
 ヒューッ!コイツァ一本取られたぜ!!あと母さんの後遺症が何なのかも分かって助かった!
 でももしこれが本当に後遺症か副作用の類であるならば、プラスには絶対になっていないと断言出来る。
 しかし母さんの自信満々のドヤ顔を見てると……とてもじゃないけど引き攣りながらではあるが笑顔を見せるしかなかった。
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