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モノローグ ⑨

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──潮風の届く丘にて

 時は流れるように過ぎて行く。
 僕は和志にささやいた。
「ねぇ和志、覚えているかい…?君と初めてこの丘に来た頃……」
 和志が僕を見て微笑んだ。
 僕はらず和志を抱き寄せる。

 こうして二人で海を見ながら、僕はあのコンクールを思い出す。
 あの時、君は失格となった。
 棄権と失格では全然違う。
──失格になったのは僕のせい。

 けれども君は笑ってた。
「怪我の功名」って言うけれど、まさしくそれだと前向きだった。
──もしケガをせずに、あのまま大雑把にマゼッパを弾いたら。
もしもあのまま、練習の足りないポロネーズを弾いたら──きっと入賞も無かっただろうと。

 そもそも準備開始が遅かったと、君は大いに反省していた。
 そんな君が愛しくて、
 そんな君が恋しくて、
 僕は益々君に惹かれた。

 君はあれから懸命だった。
 ピアノに対する意気込みが違った。
 人生を決める節目の時を、君は敏感に感じ取ったね。
 僕も将来に向かう方向を、
あの頃に決めたのだと、
今にして思う──。

 翌年君は、同コンクールで優勝を果たした。
 一年前の失敗が、かえって君を成長させた。

「音大に進もうなんて思いもしなかった。何もかも七生のお陰さ」
──って君は言ってくれたけど、でもそれは君の実力。
 君の決断──。


 慌ただしくも充実したあの頃。

──Memories  of  you

 君は僕の自慢だった。


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