上 下
11 / 29

モノローグ ⑥

しおりを挟む
──潮風の届く丘にて

 あの後僕は解き放たれた。
 心がずっと自由になれた。
 君に気持ちを告白したから?
──そうだね、君は受け入れてくれた。

 あの時君は好きだと言った。
 怯える僕に好きだと言ってくれた。
──それまでの苦悩が嘘だったように、僕の思いは昇華されたよ?
 朝凪に輝く海原のように、僕の心は穏やかになれた。

 好きだという言葉の意味を、僕は自分と同じと思った。
 好きだという言葉の意味は、他にも色々あるのにね……。

 あれからの僕達は、まるで恋人同士に見紛うように、いつも寄り添い、歩んでいたね。
 あくまでそれは『……ように』と言う、ただそれだけの事だったのに……。

 それでも僕は幸せだった。
 僕は迷わず君を信じた。
 幸福感──相手の気持ちを探っていては、到底いつまでも得られないもの。
 相手がどれだけ思っているか、信じるからこそ幸福になれる。
──思い込みだけで十分に、人は満足感を味わえるんだね。

 きらめく数々の思い出に飾られ、僕たちの中等部時代は幕を下ろした。
 そして迎えた新しい季節。
 僕たち二人は高等部へと進んだ。

 君は変わらず合唱部。
 僕もやっぱり文芸部。
 クラスもやっぱり別々で、それでも僕らは親友だった。
 何も変わらなかったね、僕たち二人。
 あの特別の夏の日までは──。

 激しい動悸と甘いときめき。
 喜びと悲しみの入り混じった
──僕たちの新たな複雑な関係。

──Memories  of  you

 僕を燃やしたあの夏の日の夜。


しおりを挟む

処理中です...