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モノローグ ⑤

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──潮風の届く丘にて

 あの出来事を切っ掛けに、僕は秘密の行為を憶えた。
 少年の純愛から青年の性愛へと、極々自然な当たり前の生理。
──誰もがしている独りの悦楽。

 性教育では肯定される。
 気にする事なんて──ない?
 罪悪感なんて──持つな?
 成長に伴う当たり前の行為?
 情報はみんな口を揃えてそう言うし、誰もが軽く笑い飛ばした。

 けれども僕は深刻だった──。

 今まで聞き流していた友人達の猥談さえも、あれからはもう苦痛でしかない。

 みんなと違う。
 僕だけ違う。
 どうして僕だけ独りぼっち?

 アイドル女子も街角の女子学生も、僕には何の関係も無い。

 君を見ていた。
 君を思った。
 後悔すると分かっているのに、僕はいつでも君で感じた。

 友情を──けがしてる?
 大切な君を──よごしてる?
 いけない目線で君を追う、そんな自分が許せなくって。
──僕はひたすら自分をいじめた。

 会っちゃいけない!
 話しちゃいけない!
 見るな!触るな!
 聞くな!思うな!
 無駄な事だね
────出来るはずない。

 僕は必死で平静を装い、そして君を見詰め続けた。

──Memories  of  you

 忘れられない思い出の曲。
 君のピアノ。
──アンダンテ・スピアナート。


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