昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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四章 果て無き雲の彼方へ

No,96 藤代の諫言①

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 重く深刻な気持ちを引きずりながらも、とにかく明彦は豪田の家に戻って来た。

 確固たる決意を固め、そして精一杯の勇気を振り絞り、広い邸宅の門前に立つ明彦。
──それはこれからの二人の為に、一度は必ずくぐり抜けなければならない門であった。

 耕造から突然告げられた、あまりにも衝撃的な真実。
──我を失い取り乱し、夢中で家を飛び出してよりまだ数時間しか経ってはいない。

 しかしわずかとは言え冷却時間を置いた今なら明彦も、そして耕造も先程よりは冷静に話し合う事も可能だろう。

 明彦は握りこぶしで気を引き締めて、今しっかりと門をくぐった。


「明彦さん、お待ち致しておりました」
「藤代さん?」 
 広い玄関ホールに入ってみると、そこには待ちかねたように藤代が立っていた。

「社長がお倒れになりました 」
「え?何ですって!」
 明彦は思わぬ事態に目を見開く。

「貴方と口論になり、貴方がお出掛けになってより直ぐ、以前より主治医から注意を受けていた血圧に異常をきたし、即刻日東医大病院に入院なさいました」
「藤代さん、そ、それで父の具合は?!」

「ご心配には及びません。手当が迅速だった事も幸いし、お命に別状は無いと言う事です」 
「そうですか……」

 耕造との対決を覚悟して戻って来ただけに、事の思わぬ展開にどう対処すべきか戸惑う明彦だった。 
 何より耕造が倒れたと聞き、意外にも不安に駆られる自分を知った。

(やはり父親なんだな……)

 確かに、血は水よりも濃いのかも知れない。


「明彦さん、実は貴方に対し、社長より言付かった重要なお話があるのです。私はそれをお伝えするために病院からこちらに戻り、貴方のお帰りをお待ちしていたのです」
「それより、僕も病院へ駆け付けなければならないのではありませんか?」
 思いもしない発言に自分自身が驚いた。
(俺は、あの人を心配しているのか?)

「社長が貴方に求めているのはまず第一に、これから話す内容を重く受け止め、冷静に考えて欲しい、と言う事なのです」
「父と僕の、親子関係の事ですね」

「はい、お聞きしました。社長から何もかも全てを」
「藤代さん、あなたは知っていたのですか?
その……豪田が僕の実の父親だという事実を」

「知りませんでした、私はつい先程まで何も聞かされてはおりませんでしたから。
が、当時、突然降って湧いた養子縁組があまりにも唐突だったものですから、正直これは訳有りか?とは感じておりましたが……」
「そうでしたか。藤代さんも真実は聞かされてはいなかったのですね」

「今回社長から全ての事情をお聞きして、あらゆる事に合点が行きました。
私はそれをこれから何もかも全て、貴方にお伝えしなければなりません」 
「藤代さん、この期に及んで他に一体どんな話が有ると言うのですか?」

 明彦の脳裏に少々怪訝な思いが走り抜ける。

「社長のお話しにはまだ重大な続きが有ったのです。
ところが貴方は感情を昂ぶらせ、お話しの途中で飛び出しておしまいになった。
社長はお倒れになった直後に私を呼び出し、その全ての事情を貴方にお伝えするよう、私に託されたのです」 

「僕を産んだ、母の事でしょうか?」
「はい、その事も後でお話し致しますが……その、まず第一に社長がご心配なのは……
大変申し上げ難いのですが」

「祐二の事ですね!」
 瞬間、明彦の全身が激情に燃える。
「それなら藤代さん!たとえあなたが何を言おうと僕の決心は変わらない!
あの人は絶対に祐二を認めようとはしなかった!
藤代さんも知っている通り、祐二のあの過去ゆえに……」

「明彦さんそれは違います! 
そう言う話ではないのです!」
「藤代さん!」

 藤代は意を決した。
 一気に言い放つ──

「分かりました、率直に言いましょう、貴方と祐二さんは兄弟なのです!
同じ母親の血を分けた、実の兄弟なのです!」

 一瞬思考が止まり、呆然と立ち尽くす明彦。


 (な、何を言ってる?)


 そのあまりに突飛な内容ゆえに、明彦には到底、藤代の言葉の意味を解する事が出来ない。

「私が病院に駆け付けた時、社長には奥様が付き添っておられました。社長は奥様と私の前で、この事実を全てお話になったのです」


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