昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
115 / 121
四章 果て無き雲の彼方へ

No,95 決意のその先②

しおりを挟む

 祐二はまるで何かに憑かれたように、ひたすら明彦に語り続けた。

「僕はこれでも家事が得意なんだ、知ってるだろ?
アキ兄ちゃんの好物は子供の頃から変わってないし、料理も全然心配いらない。
掃除はアキ兄ちゃんも得意だよね?あんなにきれい好きなのに、でも案外着る物には無頓着だから、洋服は僕がしっかり管理しなくちゃ…」

「祐二どうした?なぜ泣いてる?」

 ついに祐二が激しい嗚咽に泣き崩れる。
 
「どうして涙が出るのか分からないよ。ただ嬉しくて、どうしようもないくらい嬉しくて、何だかどうしても涙が止まらないんだ」

「祐二……」

「アキ兄ちゃん、僕のことが好き?愛してる?」

「何を今さら」

「愛してる?本当に愛してくれている?」

「もちろんだ、愛してるよ、これ以上ないくらい」

「アキ兄ちゃん、抱いて……
もっと強く、もっともっと強く僕を抱いて」

「何だよ祐二、こんなにおまえを愛しているのに、俺を疑うのか?」

 明彦は祐二を抱く手に力を込めると、貪るようにその唇を塞いだ。


(アキ兄ちゃん、愛してる。
死ぬほど……!!)


 明彦からの熱いくちづけに全てを賭けようする祐二。
 そして長いくちづけの後、明彦は祐二の頬の涙をその指先でそっと拭った。
 優しさを込めて囁く。

「祐二、 長い間済まなかった」

「僕が自分で選んだ事だから」

「もう離さない!ずっと一緒だ 」

「ずっと一緒?もう、絶対に離さない?」

「祐二……」

「アキ兄ちゃん、それなら急いで豪田の家へ戻って?」

「祐二?」

「戻って、ちゃんとけじめを付けて来て」

 明彦の瞳に暗い陰が差し込んだ。しかしそれに構わず祐二は続ける。

「アキ兄ちゃん、だってこのままって訳にはいかないよ?
分かってるだろ?」

「ああ……それはそうだな」

「待っているから、僕はアキ兄ちゃんが豪田家とちゃんとして来るのを、ずっとここで待っているから」

 しばし苦しそうに目を伏せていた明彦だったが、意を決して祐二を見据える。

「祐二、多少時間は掛かるかも知れないけれど、だけど必ず何もかも清算させて、豪田家も物産も関係の無い、昔のままの俺に戻っておまえを迎えに来る」

「待ってる。僕、待っているから……」

「祐二!」

 尚さら愛おしい限りに頬を寄せる明彦だったが、しかし祐二はそんな明彦を急き立てた。

「飛び出して来たんだろ?
騒ぎが大きくならないうちに戻った方がいい、少しも早く……」

「ああ、分かった」

 明彦は後ろ髪を引かれる思いで立ち上がると、静かにドアに向かって歩き始めた。
 そんな明彦の後ろ姿に思わず声を掛け、呼び止めてしまう祐二だった。

「アキ兄ちゃん、あの帆ノ崎の家に椿を植えよう。
僕、今までわざとあの家には椿を植えなかった。
だって椿は二人の家にって、子供の頃からの約束だったから」

 明彦は振り返り、にっと笑った。

「そうだな、白い椿だぞ」 

「うん、もちろん。
沢山植えよう、毎年春には、白い花で一杯になるように」

「ああ、楽しみだな」

 明彦がそう言って部屋を出て行った途端、祐二の張り詰めた糸が切れた。
 再びその場に崩れ落ちる。


(早くこの部屋を始末しないと大変だ。
あいつはきっとまた来る。
もしアキ兄ちゃんと鉢合わせしたら、あいつはアキ兄ちゃんに何を言うか分からない。
……もう、この部屋には居られない)


 思い詰めた表情でじっと宙を見詰める。


(アキ兄ちゃん…… 
僕たちの愛は紛れもなく、純粋で美しい本当の愛だよ……
僕がきっとそうしてみせる。
永久に変わる事ない、美しい思い出に……)


 とめどなく溢れる涙に濡れて祐二は今、明彦との永遠の愛をまっとうすべく、残された最後の道を進もうと誓う。


(さよなら、アキ兄ちゃん)


 苦悩を乗り越え清廉の時を迎えた祐二の唇に、壮絶な笑みが浮かんだ。
 そしてその時、なぜか祐二は遠い海鳴りを聞いたような気がした──。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

愛玩人形

誠奈
BL
そろそろ季節も春を迎えようとしていたある夜、僕の前に突然天使が現れた。 父様はその子を僕の妹だと言った。 僕は妹を……智子をとても可愛がり、智子も僕に懐いてくれた。 僕は智子に「兄ちゃま」と呼ばれることが、むず痒くもあり、また嬉しくもあった。 智子は僕の宝物だった。 でも思春期を迎える頃、智子に対する僕の感情は変化を始め…… やがて智子の身体と、そして両親の秘密を知ることになる。 ※この作品は、過去に他サイトにて公開したものを、加筆修正及び、作者名を変更して公開しております。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...