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四章 果て無き雲の彼方へ
No,92 明かされる秘密②
しおりを挟む──場面は現在。
祐二が秋本により、自分と明彦が実の兄弟なのだと知らされているところに戻る。
「へへっ、それで早速豪田に知らせてやったんだ、貴方様のお息子様がいらっしゃいますよ!ってな。
それで豪田も慌てて色々と調べたって訳だ」
「あんたは働きもしないのに何故か金だけは持っていた。
あの金はそう言う事情をネタにしての事だったんだな」
「まあな、ただ条件として俺もおめぇを引き取らなきゃならなくなったがよ。まあ、紛いなりにも兄弟だ、豪田もまさかおめぇ一人を放っても置けなかったんだろう」
「引き取ったって言ったって、親らしい事なんて何にもしてくれなかった」
「まあ、せっかく引き取ってやったのに勝手に出て行ったのはおめぇの方だ、恨まれる筋合いはねぇぜ」
「捜そうともしなかったくせに…」
「とにかくまあ、こうしてまた会えたんだ。これからは仲良くやろうじゃねぇか」
あまりに身勝手な言い分に祐二は声を荒らげた。
「何を馬鹿な事を!
出て行け!もう顔も見たくないよ父さん!!」
「まあそう言うなや、せっかく来てやったのによぉ」
「お、おまえは!僕に何をしたのか憶えているのか!!」
「おおっと祐二、それ以上言うか?おめぇは実の父親の俺ともやったが今はどうだ?
へへっ、実の兄貴の明彦とも同じ事をやってるんだろ?
おめぇはなぁ、そう言う淫らな奴よ!」
瞬間、祐二の目の前が真っ暗になった。
心の傷となっているおぞましい父子相姦。
そして今は実の兄と──
祐二の全身から力が抜ける。
「なぁ祐二、こうして何年か振りで会えたんだ。へへっ、懐かしい父親によぉ、手ぶらで帰れってえのもなぁ……」
「あんたにやる金なんて無い」
「そうかい、それじゃあ明彦にでもたかってみるか。これでも二年くれいは俺が育ててやったんだ、この際その恩を返して貰おうじゃねぇか」
上目遣いに覗き見る卑しい秋本の表情に、祐二は思わず身震いを起こす。秋本はこの事をネタに、本当に明彦の前へと姿を現しかねない男なのだ。
恐怖に近い焦りに襲われ、祐二は思わず秋本の身体を揺さぶり、叫ぶように懇願した。
「アキ兄ちゃんにだけは絶対に会うな!僕の事で、もうこれ以上迷惑を掛ける訳にはいかないんだ!!」
そして祐二は奥の部屋へ駆け込むと、箪笥の引き出しから慌てて一個の指輪ケースを取り出した。
それは亡き西五条子爵夫人頼子のお形見、大粒の見事な翡翠の指輪だった。
「これをやるから!
売れば相当な金になるから!
だからもう!二度と僕たちの前に姿を見せるな!!」
「何だこの石ころは?こんな物がそんなになるのか?
高級男娼なら、ダイヤモンドぐれぇ出しやがれ!」
「それは!宝石の価値も分からないあんたには勿体ないくらいの代物だ!」
「ふふん……まあいいやな、今日はこれで帰るとするか。
また来るからよろしくな」
秋本は翡翠の指輪ケースを無造作にポケットへと仕舞い込み、早々に祐二の部屋を立ち去ろうとドアへ向かった。
(僕とアキ兄ちゃんが実の兄弟だなんて、もしこんなおぞましい事実をアキ兄ちゃんが知ったらどうなる?!)
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