昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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四章 果て無き雲の彼方へ

………祐二の出生

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 幼い明彦を抱えた静枝は職を転々とし、やがて帆ノ崎の盛り場に建つ託児所付きの大衆キャバレーに流れ着いた。
 慣れぬ仕事ながらも静枝は努力し、持ち前の器量好しも手伝って店一番の売れっ子になる。

 そんな静枝に目を付けたのが、当時からやさぐれていた秋本だった。
 秋本の見た目は生っ白い優男風で女扱いも慣れており、苦労に疲れた静枝の心に忍び込んで転がすなど、手慣れた秋本にとっては至極容易な事だった。
 そして静枝は、半ば強引に秋本と同棲させられる羽目に陥ってしまう。

 実際同棲と言っても、静枝の部屋に秋元が無理やり転がり込んで来たと言うのが実情だった。
 しかし静枝は寂しく心細い生活の中で、表面上は優しげな秋本との縁を大切にした。
 ほとんどヒモとしか言えないような秋本の怠惰にも健気に耐え、働き尽くしていたのだ。



 1964年──
 静枝は秋本の子として祐二を産み落として間もなく、激しい衰弱から命を落とした。

 秋本は当時4歳だった明彦を持て余し、ためらいも無く施設の前に置き去りにした。
 明彦が施設に入ったその時、なぜかほとんど記憶が消え失せていたのは、あるいは凄惨を極めた母の衰弱死を目の当たりにした衝撃が原因なのかも知れない。

 さすがの秋本も自分の子供は捨て難く、祐二は取り敢えず馴染みの女に預けられた。 
 が、しかしその2年後、間も無く3歳という時になって、結局祐二も明彦と同じ施設の前に捨てられてしまう。
 幼い兄弟は同じ施設にいながらその血の繋がりも知ること無く、孤児として過酷な運命を共に育って行く事となったのである。



 1974年──
 静枝が亡くなってから十年も経ったある時、秋本はひょんな事から静枝が自分と出会う以前、豪田家のメイドをしていた事を知った。
 かねがね明彦の父親に関して疑問を抱いていた秋本は、思うところ有ってその当時の豪田家について探りを入れてみる気になった。
 そしてそれが、二人の運命を大きく変えた。

 明彦の父親は耕造ではないのか?
──その仮定が成立した途端、秋本は即座に豪田家へと押し掛け、耕造本人に対して強請まがいの報告となった。
 そして耕造もまんざら嘘とも思えぬ秋本の話に心を動かされ、独自で調査をする事となった。
 調査の結果、数々の状況証拠は十分にそれを立証し、極めつけは健康診断の名を借りて密かに入手した明彦の血液がものを言った。

 果たして明彦が確かに自分の子と分かった構造は、感慨に胸を打ち震わせた。
 かつて愛した、いや今でも思い続けているあの静枝の産んだ自分の子なのだ。
 静枝がとうの昔にこの世を去っていたという事実は耕造をいたく悲しませる事にはなったが、しかし明彦の存在はそれに余りある喜びを彼に与えた。

 絹子との間に子供が無かった耕造は、それを理由に明彦を養子として引き取る手はずを整えた。
 明彦は大変優秀な成績を修めており、全国模試でも名を馳せていた。それは養子として大抜擢するに当たり、表面上の理由として都合良く使えた。

 そして実は、当初耕造は父こそ違え、明彦の弟である祐二の事も放ってはおけないと考えた。何せ母親はかつて耕造が真実愛した女性、静枝である。
 耕造は明彦と共に祐二も引き取ろうと考えたが、しかしそれは秋本が承知しなかった 。

 秋本は「自分も祐二の事が可愛い、一日も早く引き取ってやりたいが、その為にはまとまった金が要る」と言った内容を並べ立て、結局は強請まがいの無心に出て来た。
 実の父親が存在する以上、耕造も無理に祐二と関わりを持っ事は出来ない。秋本の人格に疑問を抱きながらも、耕造にはどうする事も出来なかった。

 結局、祐二は秋本に委ねられる事となった。
 耕造は相当額の礼金の他に、それが強請たかりである事は百も承知の上で、秋本に対し月々の養育援助金を支払う事になった。ただしそれは、秋本が責任を持って祐二を養育するとの条件付きである。
 つまり秋本にとって祐二は、耕造から金を引き出させるための人質のようなものだったのだ。



 1975年──
 明彦は15歳にして豪田家の養子となり、11歳だった祐二はそのまま施設に残される。
 その後秋本は祐二を引き取りもせず、ただ耕造から振り込まれる養育援助金だけを延々と受け取り続けた。
 が、しかし、ある時それが耕造に知られ、かなり遅れて仕方なく、秋本は渋々祐二を引き取りに行った。

 祐二にとって、秋本との生活は凄惨を極めた。
 そんな生活が長続きする筈もなく、やがて秋本の暴挙によって崩壊する。

──肉欲に駆られた秋本が祐二を凌辱したのだ。それは世にもおぞましい父子相姦であった。

 秋本に絶望した祐二は即座に家を飛び出し、単身上京して佐伯と出会うことになる。



──それが祐二の出生から、単身上京するまでの事の顛末である。


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