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四章 果て無き雲の彼方へ
No,90 さらなる絶望
しおりを挟む──場面は現在。
自分が耕造の実子だと知った明彦が、豪田家を飛び出したところに戻る。
祐二の部屋の電話が鳴った。
『はい、秋本です』
『祐二!俺だ!』
電話の相手は明彦だったが、その声は明らかに尋常ではなかった。
『どうしたの?アキ兄ちゃん泣いてるの?』
『聞いてくれ祐二、俺はいまショックで混乱している。
父親だと言うんだ。豪田が、あの人が俺の本当の父親だと言うんだ!』
『え、分からないよ?何を言っているの?』
『だから!あの人は俺を養子としているが、実は血の繋がった本当の父親だったんだ!』
『ええっ?!そんな事があるの?信じられない!』
『俺は怒ってる!こうなったらもうあの家には居られない!いや居たくもない!
祐二、一緒に暮らそう!もう俺は何もかも捨ててやる!』
『だめだよアキ兄ちゃん!
それが本当の話なら、尚の事アキ兄ちゃんは豪田の家を出るべきじゃない!
アキ兄ちゃんは正真正銘、豪田の跡取りなんだろう?落ち着いて良く考えて!』
『祐二、何を言ってる!こんな馬鹿な話を真に受けられるか!とにかく今直ぐおまえの所に行くから!』
『いや!今はとにかく頭を冷やして、豪田のご両親と良く話し合うべきだよ!』
『うるさい!もう家は飛び出した!この電話は外の電話ボックスから掛けてるんだ。
とにかくおまえに会いたい!今直ぐ行くから!』
『来てくれても僕の意見は変わらないよ!アキ兄ちゃんは本当の父親と一緒に…』
──ガシャッ!
明彦は音を立てて受話器を置いた。
(アキ兄ちゃんが豪田家の本当の息子だったなんて……
そんな……僕はもう、本当に関わっちゃいけないんだ!)
受話器を静かに戻し、祐二は衝撃の事実に呆然とする。
(何もかも捨てるなんて言っちゃいけない……
僕の存在は、アキ兄ちゃんの将来を潰してしまうだけでなく、本当の父親とも断絶させてしまうのか……)
顔をしかめ、祐二は深刻にため息をついた。
──呼び鈴が鳴る。
(え?アキ兄ちゃん?)
ドアに向かう祐二。
(早過ぎないか?どこからの電話だったの?)
「へへっ、祐二よぉ、久し振りだなぁ」
「と、父さん!なぜ……?
どうして今頃?どうやってここを知った ?!」
明彦との電話を終えて間もなく、突然何の前触れも無く祐二の前に秋本があらわれた。
──時を同じくして、ここにも対決を免れない宿命の父と子の姿があった。
「よりによってこんな時に!これは偶然?!」
「へっ、偶然かどうかは分からねえが、こないだ何とか言う探偵が俺んとこ来てよぉ、そいつが恐れ多くも豪田の奥様からのお使いだとぬかしやがる。ここの住所はそいつがご丁寧に教えてくれたのよ、おめぇをしっかり監督しろってよ」
「豪田の奥様が……」
祐二の脳裏に、あの雛人形のように浮世離れした絹子の姿が浮かび上がる。
「へへっ、俺にもまたツキが回って来たようだなぁ」
「何だよ、何の用だよ!」
「おう祐二、おめぇ、明彦とよろしくやってるそうじゃねえか。へへっ、晴れておめぇも豪田のお坊ちゃまのおこぼれ頂戴ってところか?
俺はおめぇの父親だ、少しは分け前が有っていいんじゃねぇか?おいどうよ!」
秋本が顔を歪めて祐二に凄む。
「え、なぜ?どうしてアキ兄ちゃんを知ってる?」
秋本が自分の前に現れたのは明彦が豪田家に引き取られた後であり、秋本が明彦の事など知る筈もない──と祐二は思う。
「はあ?知ってるも何も……
ああそうか、おめぇはまだ知らねえのか、あはっ、そりゃ面白いぜ!奥方はおめぇを邪魔に思って俺に何とかしろと言っては来たが、はは~ん、本人が知らねえって事なら細工はこれからだな。よし、それならまずはあの旦那から少し揺さぶってみるか」
「何だよ?何のことだよ!」
「教えてやるぜ、へへっ、
おめぇと明彦はな、血を分けた実の兄弟だってぇことよ」
(え……ええっ?!)
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