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四章 果て無き雲の彼方へ

No,89 衝撃の真実

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「明彦、そうではない!そう言う話ではないのだ!」

「たとえ祐二の過去を知っている人間がいて、それで僕が白い目で見られる事があったとしてもそんな事は一向に構やしない!
僕は誰はばかること無く祐二と共に暮らすために、この豪田の家から出て行きます!」

「ならん!豪田の家を捨てるなどもってのほかだ!
明彦、お前は私の血を引く実の息子だ!
この豪田の血筋を受け継ぐ、正当な後継者なのだ!」

 耕造は思わず口走ると大きく肩を落とし、頭を垂れた。

「父さん……何を言っているのですか?」

「今言った通りだ、私の実の息子なのだと……」

「そんな、分かりません。僕には何のことだか……」

「 静枝は……お前を産んだ母親は、私が初めて心から愛した女だった……」

「母親?僕を産んだって?
僕は母親の名前さえ知らずに施設で育ったのに、どうしてあなたが僕の母を知ってる?
静枝って、誰ですかそれは!」

「身分違いの恋に静枝は悩み、私の前から姿を消した。
その後、私はその行方さえ全く知らなかったのだ。
ましてお前が生まれていようとは……本当に、私は何も知らなかった……」

 予想もし得ない展開に明彦の思考は錯乱する。

「待ってください父さん!僕には話が見えません!」

「ある時、お前の存在を知らせて来る者がいたのだ。
お前はあの施設で、既に中学生にまで育っていた。
それを知って、私は直ぐにお前を引き取ったのだ」

「は、母は……?」

「静枝はとうに亡くなっていた。そもそもお前が施設に入ったのも、静枝が亡くなってしまったのが原因らしい」

 徐々に事情を理解した明彦の脳裏に、たとえようもない怒りが沸き起こった。

「その話が本当だとして、それなら父さん、なぜ今まで黙っていた!」

「言えなかったのだ。
私たちには……絹子には子供が無かった。
絹子はああ言う女だが、それでもお前には良くしてくれただろう?それはお前が赤の他人と思うからだ。
もしお前が外に産ませた私の実子だと知ったら、あの気位の高い絹子は恐らくお前に相当冷たく当たった事だろう。言えなかったのだ、お前のために……」

「やめろ!今更なんだよその話は!いや、義理だと思うから、恩が有ると思うからこそ今まで仮初めにも父と呼んだが、もうもうあんたを父とは思わない!」

「明彦?」

「何だよ!今まで引き取って貰った負い目が有るから、大きな借りが有ると思ったからこそ必死に耐えてきたんだ。
俺のこれまでの人生は、今までの試練は何だったんだ!」

「分かってくれ明彦!」 

「嫌だね、分かりたくもないよ父さん!俺には元々借りなんて無かったんだ。
俺が実の息子だって?実の息子なのに捨てられたって?
恩も義理も、今となってはもう何も感じない!」

「違うぞ明彦!
私はお前を捨てていない!
お前の存在を知らなかったんだ!」

「もういい父さん!
言い訳なんて聞きたくない!俺はずっと騙されていた……
これからはもうあんたの思い通りにはならない。俺の好きにさせてもらう!」

「明彦!!」

 引き止める耕造の手を振りほどき、明彦は書斎を飛び出した。

「あ、明彦……!」

 よろめきひざまずく耕造の額に数滴の脂汗が流れ落ちた。顔色は蒼白を極める。

「う、ううっ……」
 倒れ込む耕造──。

 明彦が飛び出して程無く、様子を見に来た絹子が床に倒れた耕造を見付けた。
 驚いて駆け寄る。

「まあ、あなた!どうなさいましたの!」

「絹子か……ふ、藤代を……藤代を呼んでくれ……」

「藤代ですって?まあ、あなたそんな!それよりもまずは病院へ参りましょう!
そうね、藤代には病院の方に来て貰いますから、だからあなた、しっかりなさって!」

「絹子……」

「誰か!誰か救急車を!
あなた!あなた!!」

 絹子の叫び声が家中に響き渡る。
 が、しかし、既に家をも飛び出し、ひたすら祐二の元へと向かう明彦には、全く知る由も無かった──。


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