昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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四章 果て無き雲の彼方へ

No,88 養父との対決

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 翌日──明彦は早速、養母の部屋へと向かって行った。

「お母さん、お話があります 」
「まあ、血相を変えて何事かしら……」
 花器を前にして正座した絹子は、花を生ける手も休めず横目で明彦を流し見る。

「祐二にお会いになったそうですね」
「あら、明彦さんのお稚児さんねぇ。たいそう物を弁えた事を言ってはいたけど、口程にもないのねぇ、早速あなたに告げ口とは……」 

「お母さん!」
「明彦さん、その件についてはわたくし、全てお父様にお任せ致しましたの。お父様と良くご相談なさって?」

「父さんに知らせたのですか?」
「それはそうよ?お家の大事ですもの。
でも不思議よ?わたくしの報告を聞いても、お父様にはそれほど驚いた様子は見られなかった。以前から、とおにご存知でいらしたのかしら……
明彦さんもそこをおもんばかって、当分は謹慎あそばせ」

「お母さん……」


 祐二の事を父にも知られている──その事実は明彦にとって耐え難き重圧だった。
 しかし事ここに至っては、もはや父との対決を避ける訳にはいかない。
 明彦は重い足取りで父の書斎へと向かって行った。

「父さん、お話があります。お母さんから既に事情はお聞きになっていらっしゃるそうですね」
 耕造は机に向かって書類に目を通していたのを中断し、明彦に向かい顔を上げた。

「明彦か、お前には話しておかなければならないと思っていた。
いいかよく聞け、お前には今大事な縁談が持ち上がっておる。家名に傷を付けるような醜聞は断じて許す訳にはいかんぞ!言う事はそれだけだ」
 瞬間、明彦は驚きに目を見開いた。

「縁談ですって?何ですかそれは!僕は何も聞いておりません」
「まだ当人に知らせるほど煮詰まった話ではない。今のうちならまだ破談の汚名を着る程でもないが、それにしても今度のような事を放っておいたのでは何事に対してでも示しが付かん。その……あれとは早速に関わりを断て」

「あれとは祐二の事ですか? 
祐二は父さんの考えているような者では決してありません!祐二は…」
「分かっている!絹子はただの幼なじみと思っているようだが、あれはかつて男娼をしていたばかりか、そう、お前ともつまり、既に……」

「父さん、そこまで知られているならもう僕に怖いものはありません。
僕にとって祐二は幼い頃から何事にも代えがたい、最も大切な存在なのです。
こうなってしまった以上取るべき道はただひとつ。僕は、もう豪田の家にはいられません!」

「明彦!」

「申し訳ないと思います。無責任とも思います。孤児だった僕を引き取っていただき、これまでの大いなるご恩を思えば人でなしと罵倒されても仕方がありません。
しかし僕の人生は祐二がためにあるのです。そう信じて疑わない程に、祐二の事を愛しているのです!」

「いかん!いかんぞ明彦!
あれはだめだ!あれとの関係など絶対に許す訳にはいかんのだ!」

「父さん!」

「こうなったら結婚は急がんでもいい。若い時分にはその未熟さゆえ、様々な思い違いをしてしまうものだ。
お前がその、女嫌いだと言い張るのなら、まあ、そう思い込む時期でもあるのかも知れんが、しかしだからと言ってあれとだけは絶対にだめだ!
決して許される事ではないのだ!」

 まるで汚らわしいものかのように、あくまでも祐二の名前さえ口にせぬ耕造に対し、明彦は激しい怒りを覚えた。

「父さん、あなたは外聞だけを気にして、祐二の過去の商売ゆえに決して許さないとおっしゃるのですね?
祐二でなければ、他人がそれと気づかぬ普通の相手であれば、あなたは息子が同性愛でも構わないと言う訳ですか?
違う!僕は同性愛を認めろと言っているのはありません。祐二を愛していると言っているのです」

「明彦、そうではない!そう言う話ではないのだ!」


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