昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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四章 果て無き雲の彼方へ

No,84 夜会へのいざない

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──話は数日前にさかのぼる。
 それは祐二が絹子の訪問を受け、明彦を避けてホテルへ移った日の夜だった。
 いつも通り祐二の部屋へ訪れた明彦は、書き置きの手紙を直ぐに見つけた。



 以下、祐二の書き置き。

──明彦様、もうこんな生活には疲れてしまいました。
 気付かなかったかも知れないけれど、僕はずっと我慢をしていたのです。
 貧乏も嫌なら学校も嫌です。
 以前はあんなに楽をしながら裕福な生活が出来たのに、これから先の事を思うと、もう馬鹿らしくてやっていられないと思い切りました。
 あなたとは二年間も付き合ったのだから、いい加減もう潮時だと思います。
 僕の事なら心配無用、どうにでもやっていけます。
 それではさようなら。

 以上──



「何だこれは!!」
 明彦は思わず声を出して驚いてしまった。
 怒りや悲しみでは全然ない。あまりにも見え透いたその手紙に呆れ返ってしまったのだ。

(馬鹿なのか?こいつ……)

 そして繰り返し読むうちに 、どうにも情けない思いに苛まれる。


(祐二、俺がこんな白々しい手紙を真に受けて、おまえの思い通りになると思うか?
一体何が有ったんだ……)


 そして身体から力が抜けて行く。


(まあ、おおよその見当は付くが……)


 そして明彦は透かさず佐伯の元を訪ねた。


「遅かったですね、お待ちしていましたよ」
 佐伯はドアを開けるなりそう言った。
「やはり祐二はこちらでしたか?」
「いいえ、ここにはいません。豪田さん、一体何が有ったのですか?」

「それが俺にも全く分からないのです。見てください、こんな馬鹿な置き手紙を残して行きました」
 佐伯は手紙を受け取り、さっと目を通した。
「なるほど、こう言う事でしたか」

「佐伯さんは何か理由を聞かれましたか?」
「いいえ、あえてそれは聞きませんでした」
「佐伯さん、しかしそれでは…」

「聞かなくて良かった。もし聞いていたなら、今それをあなたにお伝えしなければならなかったでしょう?
理由はあなたが直接あの子に会ってお確かめ下さい。そうでないとせっかく会っても解決には至らないでしょうから」
「会えるんですね、今どこにいるのですか?!」

「あの子は都内のホテルにおりますが、しかし待って下さい。あなたもあの子の性質を良くご存知でしょう?
あれはかなり思い詰めていた様子でしたし、あの子は一度決めたら並大抵では折れない気丈なところのある子です」 
「確かにその通りです」

「今強引に会って追い詰めても、結果はあまり芳しくないのではないかな?まだかなり興奮しているようだしね」
「どうすれば良いとおっしゃるのですか?」

「そうですね、まずは少し時間を置いてから、何かこう、あの子のバリアを崩してしまうような形で……」
「確かに……あいつは今俺が会っても、まともに話をしようとはしないかも知れない……」

「そうそう、近いうちに例のロモランタン侯爵が欧州風の夜会をお開きになるのです。
まんざら知らない仲でもありませんし、どうです?
あなたも参加してみては?」
「佐伯さん?」

「これは面白い!是非にも参加していただきたい。
例えば……そう、あなたにはどんなに素晴らしい美女をエスコートしても恥ずかしくないような、立派なお支度を整えていただいて……」

「あ……なるほど、分かりました。是非とも出席させていただきます!」

 こうして明彦は誘いを受け、侯爵の夜会に登場する事となったのだ。 


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