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四章 果て無き雲の彼方へ
………思い出語り
しおりを挟む「アキ兄ちゃん、今日は何の日か覚えてる?」
「もちろんだよ、二年前の今日、銀座アベイユでおまえと会って食事をして、初めてこの部屋に案内された日だ」
「あの日が僕、優夜じゃなく、初めて祐二としてアキ兄ちゃんと再会した日だ」
「そんな事ないよ、俺はずっと祐二は祐二だと思ってた」
「うん、でもアキ兄ちゃんにはそうでも、僕にとってはやっぱりあの日がターニング・ポイントだったよ。
あの日から本当の意味で、祐二としての新しい生活が始まったんだ」
「そうだな、この二年間で色々な事があったな」
「うん、何だかとっても慌ただしかったけど、だけど今までで一番ゆっくり時間が流れていたような気もする……」
「今年の夏休みも帆ノ崎で過ごそぜ」
「うん、やっぱり夏は海だよね、去年は楽しかったな」
「俺も西五条さんには感謝しなくちゃ。今ではあの家、まるで俺達の秘密の別荘だな」
「本当だね、でも旅行と言えば夏も冬も帆ノ崎ばかりで本当にごめん」
「事情は分かってるよ、建物は人が住まないと傷むって言うから、せめて年に何度かは開け放して風を入れてあげなくちゃ」
「うん、そうだね」
「それに、俺にとっても帆ノ崎は故郷だ。あの町は俺たちの根っこだよ。たまに帰って自分を取り戻すのも必要さ」
「そうだね、東京ではどうしても人目が気になる。あちこち旅行するより、アキ兄ちゃんとゆっくり二人きりで過ごせる帆ノ崎が好き」
「旅行か……俺は、あの思い出のパリに今度は二人で行ってみたいな」
「え……パリ?」
「今こうしておまえと一緒にいられるのが嬉しくて、やっとそんな風に考えられるようになった」
「パリか……何だか切ないよね。辛い思い出だけど、でもあの街で出会わなければ今の僕達は有り得なかった」
「俺達も変わったよな。この二年間にも色々な事があったけれど、でも、もう俺たちは大丈夫だ」
「ずいぶん喧嘩もしたね。
でもその度に、何だか子供の頃の二人に戻れたようで逆に嬉しくなっちゃった」
「二人ともこの二年間で随分と生活が変わったしな。
俺はおまえと一緒になれて仕事にも生活にも張り合いが出来たよ。それまではちょっと俺、暗かったから 」
「僕だってこうなる前はただ流されるように生きてきた。
今までは目標も有るし、未来を考えるようになったよ?」
「おまえも今では、なんてったって高校生だもんな」
「22歳で高校2年生だなんて笑っちゃうよね」
「祐二は見た目が若いから全然平気!制服姿がばっちり似合ってるよ♪
それに、可愛い……」
「やだなぁ、本気で恥ずかしがってるのに」
「本当本当♪似合ってるって」
「そうかなぁ、変だと思うけどなぁ」
「まあ、そんなこと気にするなって」
「そう言うアキ兄ちゃんも直27歳だね。豪田の家では縁談も考えてるんだろうな」
「縁談?」
「アキ兄ちゃんが結婚したら、僕たち今まで通りには行かないよね」
「俺は絶対に結婚なんてしない」
「豪田の家は?物産の将来は?」
「だから、結婚なんて絶対にしないよ」
「そうかな……それでいいのかな……」
「祐二…………」
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