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三章 祐二の過去とこれから
No,70 身辺整理
しおりを挟む「高校の学費は俺が払う」
「アキ兄ちゃん!だからそれは」
突然の明彦の申し出に祐二は血相を変えた。
「待て、聞いてくれ、確かにおまえが俺に負担を掛けたくないという希望を俺は了解したし、その理由も分かった。
しかし高校の話は俺が言い出した事だし、生活費と違ってこれは期間も金額も見通しのつく案件だ。
さっきおまえは、気持ちの問題とお金の問題は違うって言ったよな?おまえを高校に入れたいって言うのは正真正銘 、俺の気持ちだ。
限度を超えた無理はするなって言ったよな?今の俺ならおまえ一人分の学資くらい、十分に限度内だ。
どうだ、今度は俺に分が有るだろ?素直に俺の申し出を受けてくれないだろうか」
高校へ通う?
高校生になる?
──そんな夢のような話は思った事も無い祐二だった。
「うん、分かったよ。アキ兄ちゃん……ありがとう……」
祐二は嬉しさに瞳を潤ませ、満面の笑みで明彦の胸に飛び込んだ。
「祐二、明日は一緒に東京に帰ろうな」
「うん、でも整理しなくちゃいけない事が沢山あるから大変だ」
「分かってる。そう簡単には済まないだろうな。
俺は待っているから。焦らずに、でも少しも早く俺の元に帰って来て欲しい」
「うん、そうする」
遠くから潮騒の音が微かに響く。二人はそっと瞳を閉じて、熱く燃える唇を重ね合わせた。
翌日──祐二は東京に戻ると直ぐに明彦と別れ、佐伯の元へと向かった。
別れる寸前まで「やっぱり俺も行こうか?」と心配する明彦を振り切り、一人で向かったのだ。
(アキ兄ちゃんが一緒に来たらまとまる話もまとまらないよ。だって、聞かせられない話ばかりだから……)
意外にも、佐伯は祐二を笑顔で迎えた。
「やあ、豪田さんとの再会はどうでした?昨日の今日でやって来るとは、結果は上々と言う事なのかな?」
「佐伯さん、それは……もしかして僕が何を相談しに来たのか、既にお見通しって事ですか?」
「豪田さんに聞いただろう?
君の居場所を教えたのは私だ。私は既に豪田さんの強い意志を確認している。だから君の元へ向かわせたのだ」
「佐伯さん……つまりそれは、僕が豪田さんの元へ行っても良いと、許可していただけると言う事ですか?」
「許可だって?ふふっ、君は何か大きな勘違いをしているようだね。君は私に従属している訳ではないし、ましてや理不尽な契約に縛られている訳でもない。
借金をとうに清算している君は自由だ。一体何を引け目に感じる?」
「僕は佐伯さんに命を助けられました。心から感謝しています。だから、佐伯さんの本意を裏切るような事は出来ません」
「私の本意は、君が幸福を得る事だ……と言ったら?」
「佐伯さん……」
「ただし、辞めるに当たりそれなりのけじめは付けて欲しい。沢山の方々にお世話になったのだからな」
「分かっています。そう簡単ではないことも……」
「大丈夫、私に任せなさい」
「よろしくお願いします」
──こうして祐二は佐伯の元を離れる事となった。
ただ、後ろ足で砂をかけるような辞め方は出来ない。
お客様方への挨拶や清算。
住居や家財の始末。
仲間達への引き継ぎ。
祐二は「その一切を終えるまでは会えない」と明彦に話し、納得してもらった。
──全てを綺麗さっぱり清算し、まっさらな状態で会いたいのだと、気持ちを伝えた。
身辺整理には数週間を要し、そしてそれも全て終わった。
そして今夜──ついに祐二は佐伯の元を訪ねようと意を決した。
最後の別れを告げるために──
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