昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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三章 祐二の過去とこれから

No,68 会心の笑み

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 二人は互いを見つめ合いながらも、意外なほど冷静に語り合っていた。

「だから、お願いだから僕の話を聞いて欲しい」
「分かったよ祐二、まずおまえの話を聞こう」
「ありがとう」

 祐二は自分の考えを話し始めた。
「とにかく僕が一番に思うのは、どうしたら何事も無く、二人がずっと一緒にいられるかって事なんだ。
そのためには互いに無理をしちゃいけない。特にアキ兄ちゃんは今の仕事も立場も、何もかも台無しにしてしまうような事だけは絶対にして欲しくないんだ。
だから僕は、アキ兄ちゃんに経済的負担を掛けたくない、それが二人のためなんだ」

「今の仕事を辞めて、それが可能なのか?」
「全然平気、それぐらいの事なら何とでもなるよ」

「椿姫のように、持ち物を一つ一つ売り払って食い繋いで行くつもりか?」
「そんなじゃとても続かないよ。でも、普通の生活に必要の無い物はこの際全部処分するつもり。
結構な金額になると思うよ?僕には分不相応な物が多いし、これでも高価な品を色々と貰っているんだ」

「嫌だよ祐二、それじゃあまりに一方的だ。おまえにだけ負担を掛ける事になるじゃないか」
「そんな事ないよ。僕は今まで夢も目標も無く、ただ流されるように生きてきたんだ。でもこれからは違う。アキ兄ちゃんがそばにいてくれる。そのうち僕にも出来る仕事がきっと見つかるよ」

「佐伯さんからの借金はどうなってる? 」
「今の仕事に入る切っ掛けは確かに佐伯さんにお金を返すためだった。
お客と契約がまとまるだろ?そうするとそこから規定の割合が佐伯さんの元へ入る。その差し引き分が僕の取り分として口座に振り込まれるんだけど、だんだんその金額が大きくなってきてね、借金の返済は面白いくらい簡単に済んでしまった」

「そうか……」
(それならその時、何故この仕事から足を洗わなかったのか?)
 と、明彦は口にし掛かった。
 しかし考えてみれば、たとえ借金が終わったにしろ学歴もない上に身体も労働に耐えず、しかも生きている限り医療費がついて回る祐二──
 そんな未成年者がろくな保護者もなく、たった一人きりで一体どうやって今日まで生きて来れただろう?
──明彦は昨日の佐伯の言葉を噛み締め、祐二を困らせるであろう一言を呑み込んだ。

「俺は佐伯さんに、責任を持ってお前の面倒を見ると言う約束でここを教えてもらったんだ」
「そんなじゃアキ兄ちゃん、今までのお客と何も変わらないじゃないか。次のお客はアキ兄ちゃんなの?今度は僕、アキ兄ちゃんにお世話して貰うの?」

「嫌だよ祐二!おまえは俺を今までの客と同じに思うのか?おまえを思う気持ちから発した俺の申し出は、おまえの誇りを踏みにじるものなのか?」
「アキ兄ちゃん…」

「俺とおまえの仲じゃないか 、俺がおまえの面倒を見るのはの当然の事なんだ。 子供の頃にそう約束したじゃないか!
……おまえは、俺が客と同じ目でおまえを見ていると思うのか?あんまりだよ」
 そんなつもりのない明彦はあまりに心外な言葉に声を詰まらせ、訴える。

「ごめん、言い過ぎたよ……
アキ兄ちゃんに対してそんな水臭い事を思ってはいない、本当だよ?
ただ僕は怖いんだ。覚えてる?パリで差し出したアキ兄ちゃんへの手紙。なぜ僕がアキ兄ちゃんを避けたのか……
僕、アキ兄ちゃんの重荷にだけはなりたくないんだ。アキ兄ちゃんの足手まといなるのが怖いんだ。だから身を隠したのに、でも結果こう言う事になってしまった」
「祐二、俺はおまえと会えて嬉しい。結果こうなってしまっただなんて、悲しい事は言わないでくれ」

「嬉しいよ!アキ兄ちゃんと仲直り出来て本当に凄く嬉しい!だけど、今でもあの時の気持ちに変わりは無いんだ。分かって欲しいよ」

「分かった……俺の負けだ。
もしまたおまえに姿を消されたりしたら、今度は俺も立ち直れないよ。敵わないな、おまえの気持ちを尊重するよ」

「ありがとう、分かってくれて」
「ああ、まずお前の話を素直に聞こう」

「じゃあ、コーヒーでも入れるよ」
「長い夜になりそうだな」

 二人は会心の笑みを浮かべた。


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