昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
83 / 121
三章 祐二の過去とこれから

No,68 会心の笑み

しおりを挟む

 二人は互いを見つめ合いながらも、意外なほど冷静に語り合っていた。

「だから、お願いだから僕の話を聞いて欲しい」
「分かったよ祐二、まずおまえの話を聞こう」
「ありがとう」

 祐二は自分の考えを話し始めた。
「とにかく僕が一番に思うのは、どうしたら何事も無く、二人がずっと一緒にいられるかって事なんだ。
そのためには互いに無理をしちゃいけない。特にアキ兄ちゃんは今の仕事も立場も、何もかも台無しにしてしまうような事だけは絶対にして欲しくないんだ。
だから僕は、アキ兄ちゃんに経済的負担を掛けたくない、それが二人のためなんだ」

「今の仕事を辞めて、それが可能なのか?」
「全然平気、それぐらいの事なら何とでもなるよ」

「椿姫のように、持ち物を一つ一つ売り払って食い繋いで行くつもりか?」
「そんなじゃとても続かないよ。でも、普通の生活に必要の無い物はこの際全部処分するつもり。
結構な金額になると思うよ?僕には分不相応な物が多いし、これでも高価な品を色々と貰っているんだ」

「嫌だよ祐二、それじゃあまりに一方的だ。おまえにだけ負担を掛ける事になるじゃないか」
「そんな事ないよ。僕は今まで夢も目標も無く、ただ流されるように生きてきたんだ。でもこれからは違う。アキ兄ちゃんがそばにいてくれる。そのうち僕にも出来る仕事がきっと見つかるよ」

「佐伯さんからの借金はどうなってる? 」
「今の仕事に入る切っ掛けは確かに佐伯さんにお金を返すためだった。
お客と契約がまとまるだろ?そうするとそこから規定の割合が佐伯さんの元へ入る。その差し引き分が僕の取り分として口座に振り込まれるんだけど、だんだんその金額が大きくなってきてね、借金の返済は面白いくらい簡単に済んでしまった」

「そうか……」
(それならその時、何故この仕事から足を洗わなかったのか?)
 と、明彦は口にし掛かった。
 しかし考えてみれば、たとえ借金が終わったにしろ学歴もない上に身体も労働に耐えず、しかも生きている限り医療費がついて回る祐二──
 そんな未成年者がろくな保護者もなく、たった一人きりで一体どうやって今日まで生きて来れただろう?
──明彦は昨日の佐伯の言葉を噛み締め、祐二を困らせるであろう一言を呑み込んだ。

「俺は佐伯さんに、責任を持ってお前の面倒を見ると言う約束でここを教えてもらったんだ」
「そんなじゃアキ兄ちゃん、今までのお客と何も変わらないじゃないか。次のお客はアキ兄ちゃんなの?今度は僕、アキ兄ちゃんにお世話して貰うの?」

「嫌だよ祐二!おまえは俺を今までの客と同じに思うのか?おまえを思う気持ちから発した俺の申し出は、おまえの誇りを踏みにじるものなのか?」
「アキ兄ちゃん…」

「俺とおまえの仲じゃないか 、俺がおまえの面倒を見るのはの当然の事なんだ。 子供の頃にそう約束したじゃないか!
……おまえは、俺が客と同じ目でおまえを見ていると思うのか?あんまりだよ」
 そんなつもりのない明彦はあまりに心外な言葉に声を詰まらせ、訴える。

「ごめん、言い過ぎたよ……
アキ兄ちゃんに対してそんな水臭い事を思ってはいない、本当だよ?
ただ僕は怖いんだ。覚えてる?パリで差し出したアキ兄ちゃんへの手紙。なぜ僕がアキ兄ちゃんを避けたのか……
僕、アキ兄ちゃんの重荷にだけはなりたくないんだ。アキ兄ちゃんの足手まといなるのが怖いんだ。だから身を隠したのに、でも結果こう言う事になってしまった」
「祐二、俺はおまえと会えて嬉しい。結果こうなってしまっただなんて、悲しい事は言わないでくれ」

「嬉しいよ!アキ兄ちゃんと仲直り出来て本当に凄く嬉しい!だけど、今でもあの時の気持ちに変わりは無いんだ。分かって欲しいよ」

「分かった……俺の負けだ。
もしまたおまえに姿を消されたりしたら、今度は俺も立ち直れないよ。敵わないな、おまえの気持ちを尊重するよ」

「ありがとう、分かってくれて」
「ああ、まずお前の話を素直に聞こう」

「じゃあ、コーヒーでも入れるよ」
「長い夜になりそうだな」

 二人は会心の笑みを浮かべた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

100万ドルの夜景より

月夜野レオン
BL
大手の貿易会社に勤務する裕也は王子のあだ名を持つ美青年だが、仕事が楽しくて恋愛はそっちのけで仕事三昧の日々。しかし人事異動でNY本社から来た超絶イケメンの部長の補佐に就いてからは、その手腕と容貌の魅力に抗えず、どんどん惹かれていく。大きなビジネスチャンスも恋も手に入れられるか。 少しだけファンタジー要素がありますが、基本はオフィスBLです。

愛玩人形

誠奈
BL
そろそろ季節も春を迎えようとしていたある夜、僕の前に突然天使が現れた。 父様はその子を僕の妹だと言った。 僕は妹を……智子をとても可愛がり、智子も僕に懐いてくれた。 僕は智子に「兄ちゃま」と呼ばれることが、むず痒くもあり、また嬉しくもあった。 智子は僕の宝物だった。 でも思春期を迎える頃、智子に対する僕の感情は変化を始め…… やがて智子の身体と、そして両親の秘密を知ることになる。 ※この作品は、過去に他サイトにて公開したものを、加筆修正及び、作者名を変更して公開しております。

処理中です...