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三章 祐二の過去とこれから
………祐二の独白⑤
しおりを挟む「それで広橋さん、この優夜にお話とは、一体どう言う事でしょうか?」
佐伯さんが話の本題に入って行った。
「優夜君、先日君を見て驚いたよ。いや、全くもって瓜ふたつ、まるで生き写しだ」
「 はぁ……」
広橋さんに見詰められ、僕は困惑に首を傾げる。
「佐伯さん、書道家の西五条氏はご存知ですよね?著名な方です。今や書道だけに留まらず広く絵画、陶芸など、日本文化の大家として名を轟かせている」
佐伯さんは眉間に縦じわを寄せた。
「広橋さん、またもや例のごとく、ポン引き紛いの斡旋ですか?」
「スカウトと言っていただきたい」
「あなたはそうやってうちのお客様の弱みにつけ込んで、何やら法外に甘えてらっしゃるとか?」
「いやいや、そう言う僕を利用して佐伯さん、あなたも随分と会員様をお増やしになった 、ご立派なものです」
「確かに広橋さんからは、何名様かご紹介にあずかった。同好の士を嗅ぎ分ける嗅覚がご発達かな?」
「なにせ僕の財産と言ったら上流階級の人脈だけですからね、佐伯さんの求める顧客層とはターゲットが御一緒でしょう?」
どうやら佐伯さん自身も何やら恩を受けているらしい。
広橋氏──若いながらも侮れない。結構要注意人物なのかも知れない。
「でも佐伯さん、今回の話はいつもとはだいぶ内容が異なります。単なる顧客紹介ではありません。
実は、西五条氏は私の親戚に当たるのですよ。子供の頃から叔父上と呼ばせていただいて、僕も相当可愛がって貰っていたくらいです」
「そう言われてみれば、確か西五条氏も元華族でしたね」
「そうです。やはり公家として子爵の位を拝領していました。我が広橋家と全くの同類でしてね」
「その西五条氏が、少年愛者なのですか?」
「いいえ、それが全くそう言う指向は無いのです。この話、そこがいつもとは違うのです 」
「どういう事ですか?お聞きしましょう」
僕は黙って二人のやり取りを聞いていた。
──広橋さんの話によると、西五条氏には若い頃溺愛していた夫人がいらっしゃった。
夫人は儚くも早逝されて、それゆえに西五条氏は現在まで独身を通しておられる。
御年77歳になる今でも、彼は夫人だけをひたすら愛し続けているのだ。
肖像画を飾り、写真を愛でて、彼は未だに夫人の死を悲しんでいる──と言う話だった。
「それで、優夜がその夫人に似ていると?」
佐伯さんの眼が鋭く光った。
「それはもう、僕は子供の頃から嫌というほど見せられてきたんだ、若かりし日の夫人の写真を……」
「面白いお話ですね」
「でしょ?」
佐伯さんは必ずこの話に乗ると思った。案の定、話がまとまりそうな二人は怪しい視線を絡めている。
「どうだね?優夜……君には極上の後援者が付いてくれるかも知れないぞ、やってみるかね?」
「でも、いくら似ていても僕は男ですよ?まさか、僕に女の格好をしろと……?」
「それは大丈夫、君なら出来る。まかせたまえ」
「でも、見た目を女姿で誤魔化しても、身体は……
僕は、女の人の代わりなんて出来ません」
僕の頬は紅潮していたと思う。
広橋さんがほくそ笑んだ。
「西五条の伯父上はもう相当なお年寄りだ、女の身体は必要ないな。愛しい夫人にそっくりな君をそばに置くだけで、精神的にどれほどの慰めになるか」
広橋さんの言葉に佐伯さんもうなずく。
「とにかく一度ご対面を願おう。広橋さん、よろしくお願いしますよ」
「そう来ると思いましたよ。
ただ、少々時間は要しますね。伯父上は決して少年愛者ではないのだから、この子を完璧な女性に仕立て上げなくてはならない。一朝一夕とはいかないでしょうね」
僕は困惑に顔をしかめた。
「やはり、女の格好をするんですね……」
孤児で貧乏育ちのこの僕が、子爵夫人の真似事なんて出来るはずない。ボロが出るに決まってる。
「熊田原君とも相談して優夜には一流のスタッフを付けよう。美容師、スタイリスト、行儀作法に言葉遣いも」
「佐伯さん……そんな大それたこと、僕に出来るんでしょうか」
「君なら出来る。私には分かる」
その時の僕は、佐伯さんに逆らえる立場では到底なかった──
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