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三章 祐二の過去とこれから
No,67 アルマンは暴走す
しおりを挟む「アキ兄ちゃん、僕はこれからどうすればいい?」
「そうだな、まず、今の仕事はやめるべきだと思う」
「そうだね、僕もこうなった以上、アキ兄ちゃん以外の誰とも嫌だよ。
僕は到底、椿姫のようには出来そうにないから……」
「そうだな、俺もアルマンのような思いはごめんだ」
「……だけど、僕には椿姫の気持ちが分かるよ」
「祐二?」
明彦は意外な言葉に祐二の顔を覗き込んだ。
「本当にアルマンを愛していて、二人の仲を長続きさせたいと思ったなら、決してアルマンに負担をかけちゃいけなかったんだよ、経済的に…」
「それは?」
「だって彼らは、絶対に結婚出来ない関係なんだから」
祐二は明彦と目を合わせ、ひときわ強調した口調で言い放った。
「祐二、俺に頼りたくなと言っているのか?水臭いじゃないか。それとも、俺はそんなに頼りない存在なのか?」
「違うよ。僕は子供の頃からアキ兄ちゃんだけを頼りに生きて来たんだ。会えなかったこの十年間も、ずっとずっと、アキ兄ちゃんだけを心の支えに生きてきたんだ」
「それなら、なぜ?」
「気持ちの問題とお金の問題は別なんだ。僕は椿姫のように豪華な生活をしたい訳じゃないし、今の生活にも全然執着なんて持っていない。
まして貧乏には元々慣れているんだ。今の仕事をやめて収入が減っても僕は平気だ」
「祐二に不自由な思いはさせない」
「そう言う話じゃないよ。
貧しくていいって言ったって最低限の生活費は必要だし、僕にはこれからも、ずっと医療費がついて回るんだ」
「だから、これからはそんな心配は必要ないんだ」
「困ったな、アキ兄ちゃんのそう言うところ、昔と全然変わってないね」
「どう言うことだよ?」
「アキ兄ちゃんは確かに豪田家の跡取りだけど、でも養子と言う微妙な立場だろ?
無理をして限界を超えてしまったら大変な事になるよ」
「無理なんてそんなこと!」
「仮に月々そのぐらいの出費なら自由になるとしても、この先何年?いつまでそれを続ける事になるの?
そんな事をしていたらいつかきっと、豪田家の人も会社の人も、アキ兄ちゃんの不可解な出費に疑問を持つよ?
調べられれば僕の事なんて直ぐに分かってしまう。そんな事になったらアキ兄ちゃん、なんて申し開きをするつもり?」
「おまえの事を、誰にもとやかく言わせない!」
「アキ兄ちゃん落ち着いて。
僕はこれから先、ずっとアキ兄ちゃんの近くにいたいよ?やっと掴んだ幸せだから。
だからその為には、アキ兄ちゃんに決して経済的負担を掛けちゃいけないんだ」
「経済的負担になんてならない。俺は養父の元を独立して、おまえと一緒に暮らそうと思っている。だから生活費なんて一緒だよ」
祐二は驚愕に目を見開いた。
「そんな事を言い出すから!」
「大丈夫さ、俺ももう24歳。
そろそろ豪田の家を出ようかと思っていたところなんだ。勿論それと仕事は別な話だし、大体いつまでも養父の元にいるって言うのも気が引けるよ」
「普通の家族だったらそれでもいいけど、でもアキ兄ちゃんの立場はあくまでも養子だろ?
僕たちの付き合いをこれからもずっと、なるべく穏便に続けるには出来るだけ波風を立てない方がいいと思うんだ」
「祐二?」
「もしアキ兄ちゃんが家を出たら、当然周りは一人暮らしだと思うだろ?そこに僕なんかが一緒にいたら、一体世間はどう思う?」
「それは…」
「アキ兄ちゃん、こうなった以上、僕はもう二度と離れ離れになりたくないんだ。そのためには色々な配慮が必要なんだ。僕は……椿姫と同じ立場なんだから……」
「祐二……おまえ、そんな事まで考えていたのか」
「だから、お願いだから僕の話を聞いて欲しい」
二人は互いを見詰め合った。
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