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三章 祐二の過去とこれから
………祐二の独白②
しおりを挟むBLUE BIRDS の寮には、新宿に立つ或るマンションの一室があてがわれていた。
マスターに連れられてその寮に入った時、既に数人の先輩たちが住まいしていた。
佐伯さんは学校中心の生活を送るようにと言ってくれたけれど、仕事といえば白馬会の手伝いぐらいで、僕にしたら何とも申し訳がない。
寮に住む先輩たちにも顔向けが出来ない。
仕事と言ったって、こんな事ぐらいでいいのだろうか?
BLUE BIRDS には出ていない。
週に一回、白馬会を手伝うだけで、こんなにお世話になっていいのだろうか?
僕はせめてもと思い、寮での家事を一手に引き受け、先輩たちに誠意を尽くした。
どう考えても僕だけ特別。それがどうにも心苦しかった。
「白馬会」と言ったって、僕は本当に裏方のお手伝いをするだけだった。
土曜日の夜は皆が集まる。お客様方と、僕より年上の先輩たち。
そこは銀座の一等地に立つ ビルの最上階。エレベーターを登りきるとそこには黒塗りの豪華な扉──会員制クラブ「馬賊館」
この高級クラブも佐伯さんの所有する店の一つらしい。
扉を開くとそこにはゴージャスなまでの異次元空間が広がっている。
高級な調度品。落ち着きを演出した照明効果。そこは完璧なまでに整えられた、極めて豪華なサロンだった。
一般には社用族相手の接待クラブとして名乗れ知れた高級店だけれど、土曜日の夜に限り変貌を遂げる。
土曜日は休業──それが銀座の常識だ。現にこのビルに看板を掲げる全ての店が静まり返る。
平日には賑わうエレベーターも、土曜日となると止まったままだ。
そんなビル内で密かに最上階のみ明かりが灯る。
けれどそこはマダムをいなければホステスもいない。普段の営業は為されていない。
土曜日の「馬賊館」はあくまでも休業──それが建前の人知れぬ会合。
「白馬会」──男ばかりの秘密の宴。
僕はお酒を運んだりグラスを洗ったり、本当にお手伝いだけだった 。
そんな生活が数ヶ月続き、ある時僕は佐伯さんを訪ねた 。
「佐伯さん、今日は是非にもお願いしたい事があってお伺いしました」
「お願いねぇ、う~ん、君の言い出しそうな事は何となく察しがつくが……」
佐伯さんの顔色が急に曇る。それはこれまで僕が幾度となく、絶えずお願いし続けていた事だった。
「お察しの通りです。お願いします。僕を BLUE BIRDS に立たせてください。もちろん白馬会の方でもちゃんとした接待を…」
「優夜、君はまだ子供だ」
「そんな常識を言うのなら、初めから佐伯さんの生業は成立しませんよね?僕にだってそのくらいの必要悪は理解できます」
「君は頭が良すぎる」
佐伯さんは眉間に縦じわを寄せ、ため息を吐いた。
「僕は今、一体どれぐらい佐伯さんにお借りしているんですか?助けていただいた時の治療費をお返しするために僕は働き始めました。
だけど BLUE BIRDS には出してくれないし、白馬会でも雑用ばかり。この数ヶ月の間、借金をお返しするどころか学費に生活費と、借金はますます増えるばかりじゃないですか」
僕は思いの丈を語り始めた。
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