昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
75 / 121
三章 祐二の過去とこれから

………祐二の独白①

しおりを挟む

 僕が「優夜」になったのは
──そう、あの日を境の事だった。
 その時僕は14歳。まだ中学ニ年生の頃だった。

 呼び鈴の音──そして佐伯さんは玄関へと向かった。
 そう──僕はその時佐伯さんの部屋に住んでいた。
 新宿の街に倒れたところを助けてもらい、病院に入れて貰った。
 そして退院後──どこにも行き場の無かったこの僕を、佐伯さんは部屋に置いてくれていたのだった。

「やあ熊田原君、待っていたよ。どうぞ上がってくれたまえ」
「はいオーナー、お邪魔します」

 僕は黙ったまま、佐伯さんの部屋を訪れたその男の人に頭を下げた。

「祐二君、紹介しよう。彼は私の店のひとつ、BLUE BIRDS のマスター、熊田原君だ 」
「あら、こちらが噂の祐二君?佐伯オーナーの秘蔵っ子ね。確かに中々の美形だわ」

──熊田原って、僕は思わず吹き出しそうになってしまった。瞬間、熊とダルマを連想してしまったのだ。
 熊ダルマ──その人の風貌からして、実に言い得て妙な苗字だった。

「秋本祐二です。よろしくお願いします」 
「あらあなた、今私の名を聞いて笑い出しそうになったわね?いいのよ笑っても。私は慣れてるんだから♪」
「いえ、そんな……」

 BLUE BIRDS のマスターはとても気さくな笑顔を見せた。僕は申し訳無ささに下を向く。
 どうやら見た目のいかつさに反比例して気の良さそうな、優しそうな人だった。

「熊田原君、君に来て貰ったのは他でもない。実はこの祐二君のことなんだが、どうしても私の下で働かせて欲しいと言う事なんだ」
「え?佐伯さん、だってこの子、まだ中学生でしたわよね ?」
「ああ、それが色々と事情が有ってね」
「まあ……」

 熊田原マスターは絶句し、ただただ佐伯さんと僕を交互に見渡す。僕はたまらず口をはさんだ。

「僕が無理やりお願いしたんです。他に何も出来ませんから……」
「それにしたってあなた…」 

「まあ熊田原君、事情はおいおい私の方から話すとして、とにかく指導の方をよろしくお願い出来ないかな?」
「それは……はい、オーナーのご命令とあれば……」

「差し当たって仕事について貰うとなると、けじめの上からも私の部屋へ住まわせておく訳にはいかない。今後は BLUE BIRDS の寮に入って貰おうと思っているのだがね」
「ええっ!BLUE BIRDS に立たせるおつもりなんですか?それはいけません!未成年者ですよ?摘発されたら大変ですわ!」
 マスターは驚愕に声を荒らげた。

「働かせていただけるなら何でもします!」
 僕は恐縮に肩をすぼめる。
「おいおい待ちたまえ、いくらなんでも中学生を二丁目の店には出せない。それに義務教育はちゃんと済ませて貰うよ。客筋のコネが利く私立を知っているんだ。君にはそこへ転入して貰おうと思ってる 」
「私立なんてそんな……」
「金の事なら大丈夫だ。ちゃんとその分は稼がせて貰うよ。それなら君も気が済むのだろう?」
「……はい」

「熊田原君、いくら商魂逞しい私でもこの子を二丁目の店に立たせる気は無い。それはあまりにも危険だ。
普段は寮から中学に通わせ、仕事は土曜の夜だけ手伝って貰おうと思ってる。衆目にさらす必要の無いところでね」
「なるほど、白馬会ですね? 」
「その通りだ」

 二人は意味ありげな視線を交わしたが、僕には意味が分からなかった。

「白馬会?それは何ですか?」
「仕事の詳細は後で熊田原君から説明があるだろう。特殊な仕事だがは覚悟は出来ているね?」
「はい」

「熊田原君、指導は君が専門だ。よろしく頼む」
「はい、あの、それで源氏名は?」
「そうだな、あまり本名と掛け離れない方が馴染みやすいと言うものだ。
ゆうや……そう、ゆうやという響きは登録済みかね?」
「ゆうやですか?ええっと、裕介に優太、友一ならいますけど……そうですね 、ゆうやと言う子は今いませんね」

「それならそれに決めよう。 そうだな、見た目が儚げだから、優しい夜と書いて優夜と言うのはどうだろう?」
「あら、素敵じゃありませんか」
「よろしい、決まりだ。
祐二君、今日から君は白馬会の優夜だ。いいね?」

(優夜……僕の新しい名前)

 それが僕にとってのもう一人の自分──
「優夜」との出会いだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

処理中です...