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二章 再会は胸を締め付ける
No,63 夕日に燃える二人
しおりを挟む「祐二、分かった。祐二の気持ちは全部分かってるよ」
明彦は祐二を抱き寄せた。
──そして見詰め合う二人。
「アキ兄ちゃんが好きなんだ」
「祐二」
「恥ずかしいよ、あんなこと言った直後に僕の方からこんな事を言うなんて、節操が無いよね、支離滅裂だよね」
「祐二、素直に言ってくれて俺は嬉しい」
明彦は祐二を抱き締めたまま、そっと頬と頬を合わせる。
「ずっとずっとアキ兄ちゃんの事が好きだった。いつもいつも、アキ兄ちゃんの事ばかり考えていた。
でもあの日、パリで思い掛けず再開してしまったあの日から、僕はいつも恐れていたんだ。
アキ兄ちゃんに僕の素性が知れて、いつ僕を見付け出すのか、僕はそれが怖くて、今日までずっと雲を踏むように生きて来たのに……」
「祐二!」
さらに強く祐二を抱き締め、明彦は震える祐二の耳たぶにそっとくちづける。
祐二は思わず陶酔の声を漏らした。
「本当は死ぬほど会いたかったのに、どんなに辛くても身を隠して避け続けたのはアキ兄ちゃんのため?それとも自分を守るため?もう僕には分からない。もう、何がどうでも構わない」
「祐二」
「突然アキ兄ちゃんがやって来て、あんな心にも無い酷い事ばかり言って、それをアキ兄ちゃんのためだなんて、結局は僕の傲慢な思い上がりだった。
あのあと辛くて、悲しくて、情けないけど恥も外分も投げ捨てて、こうしてアキ兄ちゃんを追い掛けた」
「だから祐二、もういいって言ってるだろ」
「こんなに汚れてしまった僕は、もうアキ兄ちゃんに会わす顔がないと思って、迷惑にしかならない僕は、アキ兄ちゃんの前から姿を消すしかないと思って、ああ、それなのに、今の僕にはもう何も考えられない……」
突然、明彦が祐二の唇を奪った。強引なくちづけで祐二の話を遮る。
そして二人は半分以上海に沈んだ夕日に照らされ、長い沈黙に強く抱き締め合った。
(祐二……俺は何をどう話せばいい?分からないよ……
今はただ、こうしておまえを黙らせるしかない……)
夕凪の音は二人を包み込み 、明彦と祐二はまるで小舟のように渚に揺れる。
「アキ兄ちゃん……」
溢れる涙を拭おうともせず、明彦の広い胸に顔をうずめる祐二。
「もう何も言わなくていい。何度も同じ事を言わせるな」
「うん、もう愚痴は言わない」
「祐二の事は全部分かっている。もう、何がどうなっても構わない。俺と一緒に東京へ戻ろう」
「うん……僕、アキ兄ちゃんと一緒に東京に戻るよ」
潮騒につつまれ、只々じっと抱き合う二人──
「祐二、今度こそ決してお前を離さない!」
明彦は思いの丈を祐二に告げた。
(アキ兄ちゃん……まさかこんな事になってしまうだなんて。
だけどもう戻れない。
もう、アキ兄ちゃんと離れられない!)
間もなく海の彼方に夕日は沈み、夕映えはやがて静かな 闇に落ちるだろう。
──なのに静かな夕凪に身を委ね、いつまでも渚に漂い続ける二人だった。
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