昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
72 / 121
二章 再会は胸を締め付ける

No,62 思い出の入江

しおりを挟む


♪トンボのメガネは
      赤色メガネ
 夕焼け雲を飛んだから         
      飛んだから♪


(バカだな。こんな子供の頃の歌を歌うなんて)


 明彦は夕日に染まる海を見ていた──


(それにしてもここは何も変わっていない、あの頃のままだ)


 沈み行く夕日の赤々と燃える日差しを受けて、この小さな入江の渚は金色に輝き、静かに夕凪の音を奏でる。
 十年に渡る歳月も、この大自然に対しては何ほどの変化も与えることなく、そこに立つ明彦にさえ、まるでそれがつい昨日の事かのような錯覚を与える。


(祐二、なぜこんな事になってしまった。お前の思いは十分過ぎるほど良く分かっている。何を考えてあんな事を言うのか、それさえ俺には痛いほどよく理解出来る。
それなのに、俺達は……)


 大海より吹き寄せる潮風が、まるで明彦の心を通り抜けて行くようだ──


(俺たちの気持ちは変わっていない、あの頃のままだ。それなのになぜ……
会えなかった長い年月が、いつのまにか二人の間に微妙な食い違いを生んだのか?
祐二、どうしたらいい……
俺たちはこれからどうしたらいいんだ)


 一人渚にたたずみ、明彦は食い入るように夕日を見つめる。
 幼い頃に幾度となく訪れたこの秘密の入り江──明彦はようやくここへ帰って来た。
 しかしここに祐二はいない 。


(今夜は駅前のホテルにでも泊まろう。そして明日、改めて祐二を訪ねるんだ。明日になればきっと祐二も落ち着きを取り戻す。
このまま……このまま祐二を置いて東京に戻るわけにはいかない!)


 赤々と燃える太陽が水平線に触れた。
 夕凪の音に身に委ね、明彦はそっと瞳を伏せる──


「アキ兄ちゃん……」


 驚きにハッと目を見開き 、振り返る明彦。


「……アキ兄ちゃん……
来たよ……」


 そこには赤々と燃える夕日を全身に浴び、一途に明彦を見詰める祐二がたたずんでいた。
 その瞳は揺れ動き、頬は紅潮している──

「みっともないよね、勝手だよね、あんな強気なこと言っといて、あんな酷いこと言っといて、それなのにこんな所にノコノコやって来るなんて」

「祐二……?」

 はにかんだ笑みを見せて祐二は視線を外した。が、その唇は微かに震えていた。

「あはっ、調子いいよね、アキ兄ちゃんの事をあんなに傷つけておいて、これって手のひら返しって言うんだよね、バカだよね、恥ずかしいよね」 

「もういい祐二!何も言うな!」

「アキ兄ちゃん……」

 黙って祐二に近づき、明彦は両手をその肩に乗せた。
 込み上げる感情に言葉が途切れ、祐二はぐっと涙を飲み込んだ。


「アキ兄ちゃんは、きっとここへ来ると思ってた」


 途端に祐二の瞳から涙が溢れ出した。

「おかしいよね、滑稽だよね 、自分でも分からないんだ、 なぜこんな事をしているのか 。
僕はアキ兄ちゃんと関わっちゃいけない。アキ兄ちゃんの足手まといにはなりたくないって、ちゃんと分かっているんだ」

「祐二、だからもう何も言わなくていいよ」

「ん~ん!だって僕は傷つけた。アキ兄ちゃんに嫌われるように、あんなに酷い事を言ってしまった!」

「分かってるよ、祐二」

「アキ兄ちゃんを追い出すためにあんな事を言ったのに、なのに、なのにアキ兄ちゃんが出て行った後、直ぐにとっても辛くなって、どんどん悲しくなって、気付いたら夢中でこの入江に向っていたよ」

「祐二、分かった。祐二の気持ちは全部分かってるよ」

 明彦は祐二を抱き寄せた。
──そして見詰め合う二人。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

処理中です...