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二章 再会は胸を締め付ける

No,61 破綻、そして決別

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「アキ兄ちゃん、もし普通に僕と再会していたなら、アキ兄ちゃんはいけない事だって分かっていた筈のさっきのようなこと……僕に出来た?」 

「そ、それは……」

「出来ないよね、出来るわけないよね!ずっとずっと我慢しなきゃいけないって、思っていた事なんだもんね。それなのに、どうしてあんな事が出来た?」

「……祐二」

「アキ兄ちゃんは僕のしてきた事を知ったから……僕は、その、男同士と言う関係を精神的にも肉体的にも、何もかも当たり前に汚れて、慣れきっている奴だと思うから、だからあんな事が出来たんだ」

「違う!それは違うぞ祐二!」

「違わないよ!だって今までずっとずっと、耐えに耐えてきた事じゃないか……それなのに、アキ兄ちゃんは……」

「ゆうじ、愛しているんだ。 
あの頃の俺は間違っていた。おまえを愛する事に何も引け目や罪悪感など感じる事は無かったんだ。今にして思うよ、俺にとってどれ程おまえが大切な存在だったのか。俺はもう恥じてなんかいない。おまえを愛することに誇りを持っているんだ 」

 祐二は黙って明彦に背を向け、窓際に立つと眼下に広がる海原を眺め始めた。


(どうしよう……アキ兄ちゃんにこんな事を言わせるつもりじゃなかった……)


 明彦はそっと祐二に近づき 、後ろから祐二の肩に手を掛けた。
「祐二……嫌だよ……こんなケンカは……」

「アキ兄ちゃんは、二人の大切な思い出を汚したんだ。僕たち二人の掛け替えのない結び付きを壊してしまったんだ」

「違う!違うよ祐二!」

「離れていて会えなかった時間も、僕たち二人の絆はいつまでも変わらないって、そう信じていたのに、それを粉々にしたのはアキ兄ちゃんだ」

「祐二、どうすれば分かってくれる?」

「このまま帰って。二度と会いに来ないで」

「そんな事ができるか!
やっと……やっと会えたのに」

「知ってるでしょ?僕の心臓の事情……。あんまり取り乱して、少し胸が痛むんだ。
アキ兄ちゃんのせいだよ?少し休むから……だからもう帰って欲しい」

 明彦ははたと顔色を変え、祐二の身体を両手で抱える。

「発作なのか?」

「そんな感じ……だから早く帰って……」

「そんな、発作の事は良く知っている。そんなおまえを残してどうして俺がこのまま帰れる?」

「そうだったね。僕の身体のことは誰よりもよく知ってるはずだね。薬を飲んで、少し休めば別に平気さ。ただ、気に障るのが一番良くないんだ 」

「……分かった。今日は突然俺が現れて、おまえも随分慌てたんだろうな」

「…………」

「日を改めてまた会いに来るよ。この次はもっと落ち着いて、冷静に話し合おう」

 明彦から目を背けたまま祐二は嗚咽を噛み殺し、明彦の身体を突き放す。

「もう、何も話す事は無いよ」 

「祐二?」

「何も聞かなかった事にする 」

 明彦は肩を落とし、静かに部屋の外へと姿を消した。


(行ってしまった……
アキ兄ちゃんが行ってしまった……)


 身体中の力が足元から一気に抜けて、そのままベッドの上に崩れ落ちる。


(……これで良かったんだ。アキ兄ちゃんを傷付けてしまったけれど、でもこれで良かったんだ……)


 止めどなく溢れる涙を拭おうともせず、祐二はうつ伏せのまま静かに瞳を閉じた。

 発作なんて嘘だった。


(アキ兄ちゃんはきっとまた来る。何とか……何とかしなくちゃ……)


 この次会ったらきっともう、明彦に対して偽りの仮面など被り切れない。
 祐二の明彦に対する理性は、もう既にギリギリのところまで追い詰められていたのだ。


(どうしよう……もう、これ以上アキ兄ちゃんに会うわけにはいかない。もう、二度と会っちゃいけないんだ!)


 これ以上明彦に会ってしまえば、この次はきっともう、どうにも理性では抑え切る事が出来ないだろう──。
 それほどに熱く激しい明彦への思いを、その時すでに祐二は自覚していた。


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