昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,60 あの頃の想いを…

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 明彦は思いの全てをぶつけるがごとく、激しく祐二の唇を奪った。

(祐二!!)
(あ!)

 強張っていた祐二の身体から見る見る力が抜けてゆき、明彦の腕の中へと崩れ落ちる。
 
(祐二、おまえが好きだ……)

 長いまつ毛を伏せた祐二の目から止めどなく涙が溢れ、紅潮した頬をつたう。

(アキ兄ちゃん、こんな事をしちゃいけない……)

 両腕の力を緩め、ゆっくりと唇を離す明彦──。
 二人は眩しそうにそっと瞼を開き、しばし互いの瞳を見つめ合う。

 既に祐二から抵抗する気力が失せていることを察した明彦は、心からの笑みを浮かべ語りかけた。
「祐二……愛しているんだ、おまえだけを」

 祐二は再びまつ毛をそっと伏せ、しゃくり上げる。
「それで……それでこれから僕をどうしようって言うの?」
「祐二?」

「これはどう言うこと?
アキ兄ちゃんは変わってしまった。こんなのアキ兄ちゃんじゃない。僕をそう言う対象にするなんて、これじゃ僕の身体を金で買った男たちとまるで一緒じゃないか!」

「 祐二……何を言うんだ?
違う……違うよ!俺はずっと前から、二人で一緒に過ごしていたあの頃からずっとずっと、お前の事だけが好きだったんだ!」

「嘘だ!アキ兄ちゃんは僕のしてきた事を知っているから、だからこんな事をするんだ!こんな事をすれば僕がその気になると思って……アキ兄ちゃんは、僕の事をそう言う目で見ているんだ」

「祐二……」
 明彦は思いも寄らぬ祐二の言葉に愕然とし、事態のあまりの展開に呆然と立ち尽くす。

「抱きたいなら抱けば?
それが僕の商売なんだから」
「ばかな事を言うな!」

 明彦から笑顔が消えた。
「どうして……どうしてそんな酷い事が言える?おまえには俺の気持ちがわからないのか?」
 明彦は言葉を詰まらせ、悔しさに震えながら一筋の涙をこぼした。

「分からないよ、アキ兄ちゃんの気持ちなんて……」

「おまえを抱きしめ、くちづけしたのは俺自身の心に正直に従った素直な行為だった。おまえの現状なんて関係ない。それ以前から、ずっと前から、ずっとずっとお前に抱いていた感情だった」

「それならどうして?どうしてあの頃そうしてくれなかったの?僕は、あの頃の僕なら、きっと喜んでそれを受け入れたと思う」

「それは……あの頃の俺にはそんなこと出来なかった。男同士なのにそんな感情が許されるのか?って、あの頃の俺はまだ自分の感情を素直に受け入れる事が出来なかったし、幼かったおまえにそんな乱暴を振るうなんてとても出来なかった」

「だから僕から逃げたの?」

「我慢するしかなかった、二人の関係を思えば……」

「だろ?あの頃のアキ兄ちゃんはそれがいけない事だって知っていたんだ。だから我慢したし、僕から逃げたんだ」

「祐二……」

「知っていたよ、ちゃんと僕には伝わっていたんだ、アキ兄ちゃんの、僕に対するよこしまな気持ちが……
だって僕も……僕もアキ兄ちゃんの事が本当に好きだったから」

「え?祐二……それは……」

「僕はまだ子供だったけれど、男同士でそんな感情を抱く事が普通じゃないって分かっていたよ。まして僕たちは本当に幼い頃から、兄弟のように育ってきたのに……」

「祐二……それは……」

「そんな二人の関係を汚すような感情を抱いている自分を嫌悪したし、アキ兄ちゃんから伝わる男同士には有るまじき欲望に期待してしまう自分も許せなかった。
だから、あの頃アキ兄ちゃんが僕に抱いていた気持ちも戸惑いも、何となく気付いていた」

「そうだったのか。悩んでいたのか俺だけじゃなかったのか」

「それでもきっと、あの頃の僕だったら罪悪感なんて投げ捨てて、ただただ嬉しさにそれを受け入れていたんだと思う」 

「祐二……」

 見詰め合う二人を潮騒の音が包み込んだ──。


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