昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,58 噛み合わない会話

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(なぜ?どうしてここにアキ兄ちゃんが?)


「突然やって来たりして驚いただろ?やっと祐二を探し当てた」


(アキ兄ちゃん……!)


 明彦から視線をそらし、窓の外に広がる青空を見詰めながら祐二は大きく目を見開いた。
 急に心臓の鼓動が激しくなる。

「なぜ?どうして……?」

 明彦から目をそらしたままの祐二の声は儚げにもか細く、そして微かに震えていた。
 そして自分に言い聞かせる。


( 落ち着け!冷静によく考えて、上手にこの場をやり過ごすんだ……!)


「まさかこの町にいるとは思わなかった。祐二、ずっと探していたんだ、パリで出会った時から今日までずっと」

「アキ兄ちゃん……」

「この場所のことは佐伯さんが教えてくれた」

「あ……さっきの電話はそう言うことか。お客様が来るならそう言ってくれればいいのに」

 祐二はいかにも平然とした様子で微笑みながら、額に当てられた明彦の手の平をそっと払い除け、上半身を起こした。


(どうしよう……今更アキ兄ちゃんに来られたって、どうすればいい? )


 2年ぶりにやっとこうして向き合えた二人──しかしその空気は妙にぎこちなく、何かしっくりと来ない不自然なものを含んでいた。

「祐二、会いたかった。会ったら話したい事が山ほど有ったのに、俺はこうしておまえを目の前にして何をどう話せばいいのか……」

「こんな遠くまでわざわざ来なくても良かったのに。もう僕たちは、何も関係が無いんだから」

 祐二はそっとまつ毛を伏せた。


(アキ兄ちゃんはいつかきっと来ると思っていた。だけどそれがまさか今日だったなんて……この日をずっと恐れていたのに)


「関係がないって、おまえがパリで寄こした手紙にもそんな風に書いてあったが、そんな物言いはおまえらしくない。それがおまえの本心である筈がない。あんな形で俺の前から姿を消されて、それで俺がはいそうですかとおまえの事を忘れられると思うか?」

「そうかな?僕は忘れていたけど……あれはパリの……そう、もう昔のことだから」

 裕二の瞳は遠くを見ているかのようだ。


(どう言えばいい?どう話せば分かってくれる?アキ兄ちゃんは、僕なんかに関わっちゃいけないんだ)


「祐二、そんな空々しいこと、おまえが本気で言ってるんじゃないって分かっているんだ。おまえのそんな言葉に騙される俺じゃない」

「アキ兄ちゃん……」

「ロモランタン侯爵に預けた俺からの手紙、おまえには届かなかったか?」

「知らないよ……と言いたいところだけど、侯爵の名誉のため正直に言っておくよ。確かに手紙は受け取りました。だけど一度目を通してその後すぐに捨ててしまったから、ごめん、何が書いてあったか、もう何も覚えていない」

 祐二は明彦からの真剣な眼差しを軽い笑みで受け流し、ひとつひとつの問い掛けにも白々しくはぐらかす。 
 噛み合わない虚しい会話に、明彦は苛立ちよりもやるせない悲しみを覚えた。


(こんなはずない!俺たちの絆はこんなに儚いものじゃないはずだ!)


 明彦の脳裏に幼い頃からの数々の場面が、早送りのようによぎって行く。
──よちよち歩きの祐二。
 少年の日の祐二。
  そして2年前の、あの優夜と名乗った異形の姿──。

 そして明彦は自分に言い聞かせる 。

(今俺の目の前にいる祐二は何も変わらない。俺の知ってる、あの頃のままの祐二だ)


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