67 / 121
二章 再会は胸を締め付ける
No,58 噛み合わない会話
しおりを挟む(なぜ?どうしてここにアキ兄ちゃんが?)
「突然やって来たりして驚いただろ?やっと祐二を探し当てた」
(アキ兄ちゃん……!)
明彦から視線をそらし、窓の外に広がる青空を見詰めながら祐二は大きく目を見開いた。
急に心臓の鼓動が激しくなる。
「なぜ?どうして……?」
明彦から目をそらしたままの祐二の声は儚げにもか細く、そして微かに震えていた。
そして自分に言い聞かせる。
( 落ち着け!冷静によく考えて、上手にこの場をやり過ごすんだ……!)
「まさかこの町にいるとは思わなかった。祐二、ずっと探していたんだ、パリで出会った時から今日までずっと」
「アキ兄ちゃん……」
「この場所のことは佐伯さんが教えてくれた」
「あ……さっきの電話はそう言うことか。お客様が来るならそう言ってくれればいいのに」
祐二はいかにも平然とした様子で微笑みながら、額に当てられた明彦の手の平をそっと払い除け、上半身を起こした。
(どうしよう……今更アキ兄ちゃんに来られたって、どうすればいい? )
2年ぶりにやっとこうして向き合えた二人──しかしその空気は妙にぎこちなく、何かしっくりと来ない不自然なものを含んでいた。
「祐二、会いたかった。会ったら話したい事が山ほど有ったのに、俺はこうしておまえを目の前にして何をどう話せばいいのか……」
「こんな遠くまでわざわざ来なくても良かったのに。もう僕たちは、何も関係が無いんだから」
祐二はそっとまつ毛を伏せた。
(アキ兄ちゃんはいつかきっと来ると思っていた。だけどそれがまさか今日だったなんて……この日をずっと恐れていたのに)
「関係がないって、おまえがパリで寄こした手紙にもそんな風に書いてあったが、そんな物言いはおまえらしくない。それがおまえの本心である筈がない。あんな形で俺の前から姿を消されて、それで俺がはいそうですかとおまえの事を忘れられると思うか?」
「そうかな?僕は忘れていたけど……あれはパリの……そう、もう昔のことだから」
裕二の瞳は遠くを見ているかのようだ。
(どう言えばいい?どう話せば分かってくれる?アキ兄ちゃんは、僕なんかに関わっちゃいけないんだ)
「祐二、そんな空々しいこと、おまえが本気で言ってるんじゃないって分かっているんだ。おまえのそんな言葉に騙される俺じゃない」
「アキ兄ちゃん……」
「ロモランタン侯爵に預けた俺からの手紙、おまえには届かなかったか?」
「知らないよ……と言いたいところだけど、侯爵の名誉のため正直に言っておくよ。確かに手紙は受け取りました。だけど一度目を通してその後すぐに捨ててしまったから、ごめん、何が書いてあったか、もう何も覚えていない」
祐二は明彦からの真剣な眼差しを軽い笑みで受け流し、ひとつひとつの問い掛けにも白々しくはぐらかす。
噛み合わない虚しい会話に、明彦は苛立ちよりもやるせない悲しみを覚えた。
(こんなはずない!俺たちの絆はこんなに儚いものじゃないはずだ!)
明彦の脳裏に幼い頃からの数々の場面が、早送りのようによぎって行く。
──よちよち歩きの祐二。
少年の日の祐二。
そして2年前の、あの優夜と名乗った異形の姿──。
そして明彦は自分に言い聞かせる 。
(今俺の目の前にいる祐二は何も変わらない。俺の知ってる、あの頃のままの祐二だ)
15
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~
四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。
ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。
高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。
※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み)
■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる