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二章 再会は胸を締め付ける
No,57 故郷での再会
しおりを挟む(やっと祐二に会える)
静かに階段を上る。
寝室のドアの前で大きく一呼吸し、そっとドアをノックした。
──返事がない。
明彦はめくるめく想いで静かにドアを開けた。
(祐二!)
明彦の目に映るその姿は紛れもなく、懐かしい祐二の姿だった 。
すっきりと整ったショート・カット──その額にかかる前髪が春風のいたずらにさらさらと揺れている。
色白のきめ細やかな肌にくっきりとした形の良い眉。夢見心地に伏せた瞳は驚くほど濃いまつ毛に彩られ、安らかな寝顔を見せていた。
(祐二だ。何も変わらない、昔のままの祐二だ……)
ツンとした鼻先。少しふっくらとした赤い唇は軽く笑みをこぼしていた。
明彦は優しい眼差しでその寝顔を見つめ続ける。こみ上げる思いに瞳が潤み、焦点がぼやけて目がかすむ。
(あ……俺、泣いている……)
そっと祐二の頭を撫でてみる。 子供の頃、いつでもこうして祐二を寝かしつけた。
瞳を閉じたまま、クスッと祐二が小さな笑みをこぼす。明彦は祐二の頬をツンと指先で押してみた。
「アキ……兄ちゃん……」
と、小さくつぶやく。
祐二は未だ夢の中にいるようだ。
瞳を閉じたまま夢見心地に自分の名前をつぶやく祐二に、明彦は堪らなく愛おしさを覚えた。いっそこのまま、ずっとこうして祐二の寝顔を見守り続けたいとさえ思う。
レースのカーテンを揺らめかせ、心地よいそよ風が二人の頬をいたずらにくすぐる。
優しい春の日差しに包まれ、 穏やかにほんのりと笑顔を浮かばせる祐二の額に、明彦はそっと手の平をのせた。
──そして祐二は、浅い眠りに夢を見ていた。
(僕達だけの秘密の場所だね)
そこは懐かしい秘密の入江。二人を包み込む金色の夕日。
響き渡る夕凪の音に漂いながら、今二人は優しく手を繋いだ。
(アキ兄ちゃんと一緒にいられて僕、とっても嬉しい……)
──明彦の笑顔が儚い幻の様に、徐々に白々と薄らいでいく 。
二人を包む夕凪の音も、同時に少しずつ薄れていく。
(また夢?これも夢なの?)
徐々に覚醒する意識の中で、祐二は切なさに目を潤ませた。
笑顔の明彦が、子供の頃の様に頭を撫でてくれていた。そして静かに、額に手の平を当ててくれる──。
(そうだね、これもいつもの夢なんだね……)
切ない思いを残したまま、祐二は重い目蓋を微かに開いた。
遠くから聞き慣れた潮騒の音。薄いカーテンがそよ風に揺らめく。
──そう、ここは自分の部屋。
徐々に覚醒していく意識を急き立てるように、階下の柱時計が3時の鐘を打ち鳴らした。
(そうだね……ここは……)
いつもと変わらぬ、身体に馴染んだ自分のベッド。
(え?)
額の上に手の平の重みと温かさを感じる。
(まだ夢を見ている?)
突然、祐二の瞳に明彦の姿が映った。
(あ!)
自分の寝顔を覗き込み、にっこりと微笑む明彦の顔を、祐二はきょとんとした目で虚ろに眺めた。
「祐二、起こしてしまった?」
(え?)
夢じゃない。
明彦の手の平は、今確かに祐二の額にのっていた。
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