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二章 再会は胸を締め付ける

No,56 明彦の帰郷

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(9年ぶり?いや、もうすぐ10年にもなるのか)

 生まれ育った帆ノ崎──この町にまさかこうした形で帰ってくる日が来ようとは──。
 懐かしい海と切なさがよぎる街並み──明彦は感慨に胸を震わせ、佐伯に教えられた高台の家へと向かっていた。

(帰りたかった……ずっと……)

 祐二と離れて豪田の家に入ってからというもの、明彦の思いはいつもこの懐かしい潮騒の町に馳せていた。
 祐二と共に育ち、暮らしてきた思い出の町。
 いつか必ずこの町に祐二を迎えに来ようと思っていた筈なのに、結局今日まで帰って来る事はなかった──それは、もう既にこの町に祐二がいないと知らされていたから。

 確かに祐二は父親に引き取られ、一度はこの潮騒の町を後にした。しかし、まさか今こうして再び戻って来ていたとは──。
 明彦は今、祐二との想い出を取り戻すためにこの町並みを歩いている。そして何より、これからの二人のために。

 見上げれば高台にこじんまりとした別荘風の一軒家。明彦の胸はいよいよ高鳴り、ゆっくりと坂道を登り始めた。
 穏やかな坂道を半分ほど登り、明彦は振り返り海を眺めた。懐かしきその海原は降り注ぐ太陽の光を受け、目映いばかりに輝いている。

(祐二も、この海を眺めるために戻ってきたのか)

 再び坂道を登り始め、明彦は小さな玄関の前に行き着いた。
──呼び鈴を鳴らす。

「豪田様ですね。先ほど佐伯様からお電話が有りました。豪田様がいらっしゃる事はお坊ちゃまにはお話ししておりません。そうするようにとの、佐伯様からの言付けでしたから」
 タキと名乗る年配の女性は明彦の突然の訪問に戸惑うこと無く、そう言って明彦を迎え入れた。

 おそらく明彦から身を隠したがる祐二の心情を思いやり、佐伯が配慮してくれたのに違いない。今更のように佐伯がどんなに祐二の事を大切に思っているのか、十分に察する事の出来る明彦だった。

「お坊ちゃまは二階の寝室でお休みになっております。どうぞお上がりください」
 タキは階段に向かって片手をかざし、二階の部屋に明彦をいざなう。
「私は、今日はお許しが出たのでこれで引き取らせていただきます」
「ありがとうございます」
 タキは一礼をするとそのまま奥に引き下がって行った。

 静かな昼下がり──潮騒の音だけが微かに聞こえる。

 明彦は階段の下に立ち、祐二のいる二階を見上げた。


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