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二章 再会は胸を締め付ける
No,55 昼下がりのまどろみ
しおりを挟むそんな時、電話が鳴った。
コールは数回で止まった。おそらく別室に控える家政婦のタキが電話を受けたのだろう。
心配顔で健がつぶやいた。
「今の電話、オーダーからかな?今夜は Blue Birds の方に顔出せって言われてたから、俺への催促かも」
一瞬、優夜も誰かな?と怪訝な顔をしたが、直ぐに気を取り直し、微笑みながら健をなだめる。
「まだ大丈夫だよ。もうじき昼だし、タキさんが何か用意してくれるから一緒に食べよ?それからでも十分、夕方には東京に戻れる筈だよ」
しばらくしてタキが昼食の用意を整え、二人の元へ運んで来た。
「タキさん、さっき電話が鳴ったけど、誰から?」
それは全く含みの無い素直な質問だった。しかしタキは一瞬ぎっくりとしたように言葉を詰まらせる。
「はい、あの、佐伯様からですが、その、何事もなくお坊ちゃまが無事か?と……。特にご用事があった訳ではないようでしたが 」
「そうなんだ……」
タキの様子に何か不自然なものは感じた。しかし優夜はあえてそれ以上追求しようとはしなかった。
優夜と健は開け放した窓からそよぐ心地よい春風に包まれ、しばし楽しき昼食の時間を過ごした。
そしてその後、健は電車の時間に迫られ、優夜に別れを告げる。
「優夜さん、それじゃ、なるべく早く東京に戻ってきて下さいね。優夜さんがいないと俺……あ……いや、みんな寂しがりますから」
健は頬を赤らめ、伏せ目がちに言葉を詰まらせた。
「健ちゃんありがとう。来てくれて嬉しかったよ」
優夜は両手でそっと健の右手を握った。ハッと顔を上げ、健は優夜と目を合わせた。見る見る頬が紅潮してくる。
「さ、さよなら」
それだけ言うと健はそそくさと優夜の元を離れ、慌てるように立ち去って行った。
健を見送り、優夜はひとつ溜め息を吐いた。
健にはああ言ったものの、実は少々体調が優れず、静養に来ていたのが本当だった。
「タキさん、何だか少し疲れました。しばらく寝室で休みます。
夕食の用意は必要ないから、タキさんも今日はもう帰って休んでください」
「はい、それでは昼食の後片付けが済んだらそうさせていただきます」
優夜は静かに階段を上り、二階の寝室に入ると直ぐさまベッドへと倒れ込んだ。
(アキ兄ちゃん……)
瞳を閉じた時、いつも思い描くのは決まって明彦の屈託の無い笑顔だ。
(また、アキ兄ちゃんの夢が見られたらいいな……)
そよ風がレースのカーテンを優しく揺らす。いつしか優夜は、静かな寝息を立てていた。
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