昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
62 / 121
二章 再会は胸を締め付ける

No,54 役者志望の後輩

しおりを挟む

「やれやれ、困ったな……。
それより健けんちゃん、そんなに玲央が気に障るなら健ちゃんこそ頑張って競ってみれば? 
岡田会長って、本当は健ちゃんみたいに爽やかなスポーツマン・タイプがお好みなんだよ?」
「裕也さん冗談でしょ?何で俺が優夜さんのご贔屓に手を出せるわけ?本当に、何でこんなに無欲でナンバー・ワンしてられるのか俺には全然わかんねぇよ 」

「ご贔屓って言ったって僕が指名を独占できる訳じゃないし、それはあくまでも岡田会長次第だし。
健ちゃんもそろそろちゃんとした専有契約を結んでおかなくちゃね。まあ、だけど本人にその気がないんじゃ仕方がないけど」
「いいんですよ俺なんて。普通に優夜さんのヘルプをしてりゃ、よそのバイトよりは格段に稼げるんだし」

「健ちゃん、役者になるって夢が有るんだろ?養成所にしたって劇団にしたってお金が掛かるばかりで収入になんてならない。
バイトに明け暮れていたんじゃ歌のレッスンもダンスのレッスンも通う時間が無くなるだろ?
僕は健ちゃん、絶対に才能あると思うよ?それに健ちゃんカッコいいもん。だから健ちゃんはお金の事なんかに煩わされずに、一生懸命稽古だけしてればいいんだ。
お客はね、そのためのパートナーなんだよ。成功するその日まで、健ちゃんを親身に見守ってくれる恋人だと思わなくっちゃ」
「優夜さん……そんな、俺たち決して褒められた事してる訳じゃないのに、なんだか優夜さんの話を聞いていると心が洗われるよ」

「洗われるなんてそんな……。
確かに僕たち、人に言えるような仕事はしてない。でも健ちゃんは夢に向かって頑張ってる。
僕なんて健ちゃんみたいに目標が有る訳じゃないし、他に何も出来ないから……」

 自分も既に20歳を超えてしまった。こんな歳まで生きられるとは本当に思っていなかった。 
 そして、いつまでもこんな生活が続く筈もない──。
 優夜の胸には数々の思いが渦巻き、将来の目標を持つ健が生き生きと輝いて見える。

「 健ちゃん、応援してるから、きっと夢を叶えるんだよ」
「優夜さん、俺、上京してから生活に困って、どうしようもなくてこの商売に飛び込んでしまった。すねてやけになっていたけど、でも優夜さんに会えて本当に良かった」

「健ちゃん、佐伯さんが健ちゃんを白馬会に呼ぶのはね、不特定多数のお客に顔を売らせたくないからなんだよ?」
「え?」

「つまりね、将来役者として成功した時、あれ?あいつ二丁目で売ってた子じゃない?なんて噂が立たないように」
「ほんと?佐伯さん、俺の事そこまで考えてくれてる?」

「そうだよ、あれで佐伯さん、結構僕達のこと考えてくれているよ。だから玲央に負けずに上客付けなきゃ!」
「優夜さ~ん!」

 感情の起伏の激しい健は感動のあまり優夜に抱き付かんばかりの勢いだった。そしてそんな建を見ながら優夜は思った。

(健ちゃんが羨ましいよ、健ちゃんには夢が有るから……。
僕には何も無い。ただ生きるので精一杯。今日までただ流されて来ただけ……)


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

処理中です...