上 下
58 / 121
二章 再会は胸を締め付ける

No,50 佐伯との対峙 ⑦

しおりを挟む

「……何も知りませんでした。
祐二が僕を訪ねてこの東京にまで来ていたとは……。それに、父親に引き取られたとは聞いていましたが、まさかそんな酷いことになっていただなんて……」
「もう、私が会ったあの時点で彼の心臓は限界だったのです。酷い父親の元で相当な無理を強いられていたようですね」

(祐二、どうして俺を頼ってくれなかった!)
 明彦はどうしようもない悔しさで胸を掻きむしる思いだった 。

「豪田さん、成り行きで少々きつい言い方もしましたが、それほど私も冷酷な人間ではないのですよ。あの子に対し、治療や生活に関わる費用の話など私から持ち掛けた事は一切無かった。ところがそれを一番に気にしていたのは彼自身だったのです」
「……そうでしょうね。祐二はそう言う奴です」

「私を信用してくれたのでしょうか、あの子は大体の事情を話してくれました。生い立ちから始まり、再会した父親の元から逃げて来た事、そしてどうしても父親の元には帰れないと言う理由まで。
でも豪田さん、貴方の事は知らなかった。何故か彼は、貴方の事だけは私に話さず隠していた。
私が貴方の事を知ったのは、あのパリでのでの再会の後でした」
「それは何故でしょう?
もう、頼りにならない僕の事なんか忘れてしまいたかったから?」

「いえ、今なら私にも理解出来ます。貴方との大切な想い出を誰にも話さず、自分だけの宝物として置きたかったのでしょう」
「祐二……」

「ある程度の事情を聞いた私は、取り敢えず彼を私の家に住まわせるつもりにもなりましたし、行き場の無かった彼もそれには感謝してくれました。
が、しかしまさか、その時点で彼を私の商売に使おうなどとは思ってもいませんでしたよ、これは嘘ではありません。いくら何でも、私もそこまで商魂逞しくはありませんから」
「それなのに……祐二が自らあの特殊な仕事を始めたと?」

「先程も話しましたが、彼は彼なりに仕事を探したようだがそれは到底無理だった。あの子は未成年の、しかも義務教育さえ未だ途中の立場なのです。私は客筋の顔の利くある私立の中学校にあの子の転入手続きを取りました。これはもう、他人としては最高の親切だと思いますけれどいかがですか?
けれどもそんな私の無償の好意が益々あの子を追い詰めたのかも知れない。やがてあの子は私の商売を知り、自分から身体を売りたいと申し出ました」
「そんな……」

 明彦は言葉に詰まった。
 事情を知れば知るほど、何も言えない──。

「そして私は、そんな彼の申し出を受け入れるのが最善の方法だと考えたのです。理由は何度も話した通り、彼自身が他人からの施し
を良しとしない高潔な人格であったこと。まあ、それに私も一応は商売人ですし、あの子に掛かった費用はいくら成り行きとは言え、確かに他人の領域をはるかに超える金額でした。返済して貰えるなら、まあ、それに越したことはありません」 

 明彦は、ただうなだれて黙っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

琥珀に眠る記憶

餡玉
BL
父親のいる京都で新たな生活を始めることになった、引っ込み思案で大人しい男子高校生・沖野珠生。しかしその学園生活は、決して穏やかなものではなかった。前世の記憶を思い出すよう迫る胡散臭い生徒会長、黒いスーツに身を包んだ日本政府の男たち。そして、胸騒ぐある男との再会……。不可思議な人物が次々と現れる中、珠生はついに、前世の夢を見始める。こんなの、信じられない。前世の自分が、人間ではなく鬼だったなんてこと……。 *拙作『異聞白鬼譚』(ただ今こちらに転載中です)の登場人物たちが、現代に転生するお話です。引くぐらい長いのでご注意ください。 第1幕『ー十六夜の邂逅ー』全108部。 第2幕『Don't leave me alone』全24部。 第3幕『ー天孫降臨の地ー』全44部。 第4幕『恋煩いと、清く正しい高校生活』全29部。 番外編『たとえばこんな、穏やかな日』全5部。 第5幕『ー夜顔の記憶、祓い人の足跡ー』全87部。 第6幕『スキルアップと親睦を深めるための研修旅行』全37部。 第7幕『ー断つべきもの、守るべきものー』全47部。 ◇ムーンライトノベルズから転載中です。fujossyにも掲載しております。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

処理中です...