昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
57 / 121
二章 再会は胸を締め付ける

No,49 佐伯との対峙 ⑥

しおりを挟む

「実際あの子を見付けた時は驚きましたよ。いえ、まさか新宿の場末に倒れ込んでいたあれを、心臓の発作だとは気が付かなかったのですがね……」
 佐伯は淡々とした口調で祐二との経緯を語り続けた。

「その時、私は所用が有って真夜中の新宿を急ぎ歩いていた。
不夜城と言われる派手な繁華街から外れ、少し寂しい路地に差し掛かったところに、ちょっとした人だかりが出来ていました。
が、いつもの私ならそんなものに関心は持たない。黙ってそこを行き過ぎようとした時、ふと野次馬の声が耳に入ったのです」


──なあ、あれって中坊じゃん?
──すげーよな、こんな夜中に学ランのまま酔い潰れてるなんて、かなりやべぇんじゃね?
──ああ、あれは典型的な家出少年だな。大方どっかの田舎もんだろ。


「そんな野次馬たちの会話の中の(少年)と言うワードに私は足を止めました。まさに職業的な勘が働いたのでしょうね」

 明彦は黙って佐伯の話を聞き続けるしかなかった。
 
「驚いたと言うのはね、あの子の美貌に対してなのですよ。
何せこう言う商売をしていますからね、その点に関しては審美眼と言うか何と言うか……詰まるところ利害的な興味がわいて声を掛けてみる気にもなったのです 」
「あなたは裕二が単に綺麗だったから助けたと、そうおっしゃるのですか?」

「そうですね、確かに声を掛けた動機はそうですね。しかし初めにお話したでしょう?まさか心臓の発作だとは思わなかったと。
彼に声を掛け、その反応がただ事でない事に驚き、抱きかかえてみて初めてあの子の状態を知りました。いくら何でもあの子の深刻な症状を知れば、病院に担ぎ込むぐらいの事は人間として当たり前の事でしょう」
「そうでしたか……あなたに見付けて貰えなかったら祐二はどうなっていたか……」

「まあ動機は何であれ、あの場に私が居合わせたのは幸いでした。彼の容姿が私の興味を引く対象でなければ、私も彼を単なる酔っぱらいと思ってその場をやり過ごしたでしょうからね」
「そうでしたか……祐二は、やはりあなたと出会えたから命が助かったのですね。これは、幸運な巡り合わせだったと思わなければならないのですね……」

「酔いつぶれているのが女なら、あの街の欲望にまみれた男たちが放っては置かなかったでしょう。
が、男で、しかもあの時のあの子ときたら身なりもみすぼらしく、汗にまみれて顔だって薄汚れていた。どう見ても繁華街で酔い潰れた不良少年です。こんな世知辛い都会で誰がそん彼に声など掛けるでしょう?誰もそんな彼に関わろ
うとなどしやしない。
が、しかし私は違った。あの子の持って生まれた美しさにピンときました。私が彼の覆い隠された美貌を見抜いたからこそ、ひいては心臓の発作にも気付く事が出来たのです」

 明彦は、先ほどの玲央との会話を思い出した。
 玲央の言う「この容姿だけが僕の財産ですから」との意味が、今ようやく分かる気がする。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...