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二章 再会は胸を締め付ける
No,49 佐伯との対峙 ⑥
しおりを挟む「実際あの子を見付けた時は驚きましたよ。いえ、まさか新宿の場末に倒れ込んでいたあれを、心臓の発作だとは気が付かなかったのですがね……」
佐伯は淡々とした口調で祐二との経緯を語り続けた。
「その時、私は所用が有って真夜中の新宿を急ぎ歩いていた。
不夜城と言われる派手な繁華街から外れ、少し寂しい路地に差し掛かったところに、ちょっとした人だかりが出来ていました。
が、いつもの私ならそんなものに関心は持たない。黙ってそこを行き過ぎようとした時、ふと野次馬の声が耳に入ったのです」
──なあ、あれって中坊じゃん?
──すげーよな、こんな夜中に学ランのまま酔い潰れてるなんて、かなりやべぇんじゃね?
──ああ、あれは典型的な家出少年だな。大方どっかの田舎もんだろ。
「そんな野次馬たちの会話の中の(少年)と言うワードに私は足を止めました。まさに職業的な勘が働いたのでしょうね」
明彦は黙って佐伯の話を聞き続けるしかなかった。
「驚いたと言うのはね、あの子の美貌に対してなのですよ。
何せこう言う商売をしていますからね、その点に関しては審美眼と言うか何と言うか……詰まるところ利害的な興味がわいて声を掛けてみる気にもなったのです 」
「あなたは裕二が単に綺麗だったから助けたと、そうおっしゃるのですか?」
「そうですね、確かに声を掛けた動機はそうですね。しかし初めにお話したでしょう?まさか心臓の発作だとは思わなかったと。
彼に声を掛け、その反応がただ事でない事に驚き、抱きかかえてみて初めてあの子の状態を知りました。いくら何でもあの子の深刻な症状を知れば、病院に担ぎ込むぐらいの事は人間として当たり前の事でしょう」
「そうでしたか……あなたに見付けて貰えなかったら祐二はどうなっていたか……」
「まあ動機は何であれ、あの場に私が居合わせたのは幸いでした。彼の容姿が私の興味を引く対象でなければ、私も彼を単なる酔っぱらいと思ってその場をやり過ごしたでしょうからね」
「そうでしたか……祐二は、やはりあなたと出会えたから命が助かったのですね。これは、幸運な巡り合わせだったと思わなければならないのですね……」
「酔いつぶれているのが女なら、あの街の欲望にまみれた男たちが放っては置かなかったでしょう。
が、男で、しかもあの時のあの子ときたら身なりもみすぼらしく、汗にまみれて顔だって薄汚れていた。どう見ても繁華街で酔い潰れた不良少年です。こんな世知辛い都会で誰がそん彼に声など掛けるでしょう?誰もそんな彼に関わろ
うとなどしやしない。
が、しかし私は違った。あの子の持って生まれた美しさにピンときました。私が彼の覆い隠された美貌を見抜いたからこそ、ひいては心臓の発作にも気付く事が出来たのです」
明彦は、先ほどの玲央との会話を思い出した。
玲央の言う「この容姿だけが僕の財産ですから」との意味が、今ようやく分かる気がする。
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