昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,48 悲しい再会

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 大邸宅──お城のようなお屋敷。その閉ざされた広い門の壁についたインターホンのボタンを、祐二は震える指で恐る恐る静かに押した。

「どちら様でしょうか?」
スピーカー越しに事務的な女性の声が尋ねる。
「あの、秋本と申します。明彦さんとお会いしたいのですが、いらっしゃいますか」
「秋本様ですか?あの、どちらの秋本様でしょうか?お約束はございましたか?」 
「はい……あの……」

 その時だった。突然はるか向こうの角を曲がり、一台の高級車がこちらに向かって走り来る。
 瞬間──祐二は反射的に近くの物陰に身を隠した。

 はたして車は門の前で一時停止し、広い門扉が両側に少しずつゆっくりと開いて行く。

(アキ兄ちゃん!!)

 祐二は心の中で大きく叫んだ。思いの限りに明彦の名を呼んだのに、しかし心の叫びは明彦の元には届かなかった。

 後部座席に座った懐かしい面影──それは紛れもなく明彦だった。しかし明彦は祐二の存在に気付かない。物陰に隠れ、恐る恐る離れた場所から覗く祐二に気付く筈ない。

 数年ぶりに見る明彦の様子は、その逞しく大人びた青年の面影は──もはや自分の知っている明彦とは別人のようにさえ感じられた。

 それはほんの一瞬の再会だった。車中の人は開いた門扉の中へと吸い込まれるように消え去った。

 立ち尽くす祐二──。

 名門校の制服を身につけ、冷徹な表情で高級車に乗りつける明彦の姿──そんな自分とは別世界の姿を見てしまった今となっては、もはや祐二に再び豪田家の呼び鈴を押す勇気など無かった。


(アキ兄ちゃん……もう、僕達は別々の世界に生きてるんだね)


 その後、どこをどう歩き回ってこの新宿にたどり着いたのか分からない──放心した祐二には自覚がない。

 昨夜からの疲労と足を棒にして歩き回った負担から、祐二はいつもの発作を起こして倒れ込んだ。
 そして祐二は、はたと気付く。
──薬が無い。


「はぁ……はぁ……」 

 息絶え絶えに祐二は思った。


(僕、このままここで死んじゃうのかな……アキ兄ちゃん……助けて……)


 人混みの絶えない真夜中の新宿──倒れ込み、閉ざされたシャッターに身をもたれながら苦しむ祐二になど、誰一人として関心も示さぬ冷たい街角。

 徐々に薄れいく意識の中で、 明彦が変わらぬ微笑みを投げ掛けてくれるようだ。


(祐ちゃん、大丈夫だよ?俺が一緒だから全然平気……)


 祐二の視界が苦痛に霞んだ。


(祐ちゃん、俺たちはいつまでもずっと一緒だよ……)


 明彦の笑顔を思い浮かべて──祐二はそっと瞳を閉じた。


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