昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,40 佐伯との対峙 ②

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「そして私は、彼が彼なりに独立した一人の人間として『他人』の厄介になること無く、独自の生計を立てられる人間であって欲しいと願っています」
「え?他人だなんて、それは僕の事を言っているのですか?」

──明彦は佐伯の言う「他人」と言うワードに引っ掛かりを感じた。

「私があえて今『他人』という言葉を使ったのは、貴方があの子にとってその『他人』なのか、或いはそれ以上なのか、そこのところをはっきりとさせて頂きたいからなのです」
 明彦の胸に沸々と憤りが込み上げる。

「……随分、祐二のことを大切に思って下さっているようですが、そんなあなたが祐二にやらせてきた仕事は……!」
「そうですね。大変非常識な仕事であることは認めます」

「僕はここに来るに当たり自分に言い聞かせて来ました。既に済んでしまった事で言い争いをしてはいけない。まずはとにかく祐二の居所を知ることが肝心なのだと!
そう思い……祐二の特殊な仕事については触れずにいようと思っていたのに……。
……なのに!あなたのその言い分は何だ!まるで祐二の保護者気取りに偉そうな事を言っているが、あなたが祐二させてきた事は!あなたはどういう人間なんだ」
 声を荒げる明彦に対し、佐伯は極めて冷静だった。

「それは私にとって、彼があくまでも『他人』でしかないと言う事なのでしょうね。
ふっ、確かに、いくら私でも身内にあんな特殊な仕事はさせません」
「そんな!そんな他人のあなたに僕と祐二の事をとやかく言われたくはない!
祐二が受けてきた数々の屈辱と苦痛を思うと俺は……俺は……」
 感極まった明彦の目蓋から熱い涙が一筋こぼれ落ちた。
 そして終始穏やかだった佐伯が一変し、鋭い視線で明彦に問うた。

「この厳しい世間で、貴方は他人に何を期待し、どんな責任を負えと言うのですか?」
 佐伯が大きなため息を漏らす。
「豪田さん、私が教会の牧師か、或いは福祉に生きる慈善家であったなら彼にこんな仕事をやらせたりはしなかった。が、残念ながら私はそのどちらでもなかった。
世間の厳しさを人一倍知っている貴方なら、私の言っている意味がお分かりでしょう?」
「そ、それは……」

「私は牧師でも慈善家でもなく、水商売を生業とする人間でした。そんな私と彼が出会ったのも何かの縁と言えましょう。私は自分の生業を通し、私なりに出来るだけの事をしたつもりです。
ご存知ですか?私があの子を見つけた時、彼は心臓の発作で危うく命を落としかけていたのですよ 」
「知っています。パリで渡された祐二からの手紙に、あなたが危機から救ってくれたのだと書いてありました。それに関してはとても感謝しているのです、心から……
しかし……だからと言って……」

 祐二が生死の境をさまよっていたその時、自分にはどうする事も出来なかった──それを思うと、どうにもやるせない明彦だった。


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