昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,38 白馬会

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「優夜さんは使い捨てのウリセン・ボーイなんかじゃありません。きれいなだけじゃなく頭も良いし教養も有るし、言葉遣いだって僕は優夜さんに教わりました。
僕もいつかは優夜さんみたいに上客を付けて、将来はこの街でお店を始める資金を貯めたいんです。
だから豪田さんなら最高。
ステータスだけじゃなく、若くてカッコ良くて性格も素敵♡」
 玲央が明彦に身体を投げた。
──そんな玲央を、明彦はそっと優しく押し離す。

「玲央、ごめん……今、俺は優夜を捜すのに手一杯なんだ、許してくれ」
 玲央が屈託の無い笑顔を見せる。
「やっぱり豪田さんは簡単じゃないな。いずれきっと白馬会にも呼ばれますよ?」
「白馬会?それは……?」

「佐伯さんは都内にいくつもお店を持っていて、二丁目にも数件のお店を持っています。ウリセンの中でもあの Blue Birds はかなり上等な方で、だから僕も普段はあそこで待機してるんですが……でも優夜さんは Blue Birds にさえ顔を見せない。
そこで話は白馬会となりです」
「白馬会って、それも店なのか?」

「いいえ、佐伯さんは銀座にも一流のクラブを持っていて、馬賊ってお店なんだけど、ほら、銀座は土日は休業でしょ?
だから週に1回、そのクラブが休業の土曜日の夜だけ開かれる会員制の営業……って言うより、秘密の集会なんです。
Blue Birds になんて顔を見せない本物のVIPが集まるんですよ?そして、そこでは桁違いの専有契約が結ばれる……」
「優夜はそこで……」

「はい、スターです」
「なるほど……だからフランスの侯爵なんて浮世離れした契約が成立するのか……」
「え、侯爵?フランスに行ってるって話は聞いた事があるけど侯爵とは流石だな。一応僕も白馬会へは顔を出させて貰っているけど、まだまだ優夜さんの引き立て役ですよ。そんなに簡単に上客は付かない……」
 玲央はその華やかな容姿には似合わない憂いを見せた。

「ようするに、土曜の夜に行われるその白馬会に行けば優夜に会える……って訳だな」
「だから豪田さん、そんないきなり行ったって、簡単に中には入れて貰えないから……」
──などと話しているうちに、タクシーが目的地へと到着した。

「ここが佐伯さんの事務所の入ったビルです。僕はこのまま店へ戻りますから」
 玲央がさっと立ち上がり、明彦の降車をエスコートする。
「ありがとう、むき出しで失礼だけどタクシー代だから」
 明彦が玲央に万券を差し出すと、玲央はそれを静かに拒んだ。
「マスターから預かって来ましたから」
「それじゃ、その預かり分は玲央が貰っておいて?」
 そう言うと、明彦がすんなりとその万券を運転手に手渡した。
「お釣りはこの子に渡して下さい」
 何ともスムーズなやり取りだ。今や明彦も御曹司に相応しい所作を身に着けていた。
「ありがとうございます♡」
 玲央も素直に笑顔を見せる。遠慮も一回だけと言う粋な対応が板に付いている。
 
 玲央を乗せたタクシーが発車し、一人ビルを見上げる明彦だった。


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