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二章 再会は胸を締め付ける

No,37 それぞれの事情

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「僕は今、ウリセンやってる子なんて不遇な子が多いんだって話したけれど、実はそれだけじゃない。人の事情や考えは十人十色、みんなそれぞれ違います。
この仕事を楽に稼げると安易に考えて自堕落になって行く子や、逆に何にも考えずに身体を壊す子。
遊ぶ金欲しさに軽く始めて、金銭感覚を狂わせて抜け出せなくなる子もいれば、中にはSEX依存症になっちゃって、もう、まともな仕事になんて就けなくなってる子もいる。まさに身を持ち崩すって表現がぴったりなのかな?
ふっ……ウリなんて、若いうちの数年間しか稼げないのにね」
「それが分かっていて何故……?
まさか、優夜も……」

「優夜さんは全然違います。
……僕が絶望に打ちひしがれ、この仕事にたどり着いた時、優夜さんは燦然と輝く星だった。
僕に生まれて初めて希望と言うものを抱かせてくれたのが優夜さんの存在でした。そして僕は今、優夜さんを目標にしている」
「玲央くん、あ、いや……玲央って呼び捨てるんだったね。
玲央がどんな逆境に絶望したのか分からないけど、でも他に何か、もっとまともなやり方は無かったのかな」

「僕が世間に放り出された時、未成年……ってか、まだ子供だった僕に一体どんな生活の術が有ったでしょう?
親に虐待され、拘束されていた僕は施設の存在すら知らず、義務教育も満足に受けられなかった。
 母親が何日も帰らず、僕はその機会に必死であの監禁されていた部屋から逃げ出した。豪田さん、世の中には戸籍のない子供がいるって知ってますか?そんな子供に何が出来ます?まあ、今でもまだ未成年ですけど」
 明彦は思い知った──親に捨てられ、施設で育った自分は十分に不遇だと自覚していたが、まさかその施設にすら入れない子供がいたとは──。
 無戸籍な子供の存在は知っていた──自分だって一歩間違えれば似たような境遇だった。

「僕がこの街にたどり着いた時、拾ってくれたのが佐伯さんでした」
 なるほど──玲央の事情が優夜にも重なる。

「親らしい事なんて何もしてくれない母親だったけれど、僕をこの容姿に産んでくれた。
可愛いなんて言われた事が無くて育ったから、だからこの容姿の価値が自分では分からなかった。
それを教えてくれたのが佐伯さんでした。そしてそれに高値が付く術を与えてくれたのも佐伯さんなんです。だから、この容姿だけが僕の財産……」
「玲央……」

「豪田さん、年端も行かない子供だからこそ更に高値を付けてくれるって……世間にはそんな特殊な嗜好の人達がいるのをご存知ですか?」
「もういい、分かったよ玲央。
君の話はそのまま優夜に繋がる」

 玲央の事情に明彦の胸が詰まった。そして、その話の奥に優夜の姿が思い浮かぶ。


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