昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,34 華やかな少年

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「先ほどは失礼致しました。私はこの店を任せられている熊田原と申します。オーナーも是非あなたにお会いしたいとの事です」
「え、そうなんですか?それは意外です……」

「オーナーは事務所におりますが近所なのでご案内致します」
 熊田原は横に立つ玲央に命じた。
「玲央ちゃん、この方を事務所へお連れしてちょうだい。顔どころか名前まで売れるチャンスだわよ」
「あ、マスターありがとう!」

 玲央が笑顔で明彦の顔を覗き込んだ。
「オーナーのところへご案内します。行きましょう」
 当たり前のように明彦の手を取った。

(え?!)

 優夜の微笑みが月のような輝きならば、玲央の笑顔は真夏の太陽のように煌めいていた。

(そんな、会ったばかりで手を繋ぐなんて……これがこの店の流儀なのか?)

 明彦は玲央に手を引かれ「BLUE  BIRDS」を後にした。

 エレベーターに乗り込んでも玲央は手を離さない。何故か明彦もそれを振りほどく事が出来なかった。

「改めて自己紹介します。玲央と言います。これをご縁に、これからもよろしくお願いしますね♡」
「あ、うん……」
 この会話がむしろタイミングとなり、明彦はそっと玲央から手を離した。

「オーナーのいる事務所はここから歩いて行けない事もないけど、でもお急ぎだろうからタクシーを拾いますね」
「ああ……そうだね」
 玲央の笑顔が眩しい。それが水商売特有の媚だと分かっていても、今までそんな事に無縁だった明彦には十分刺激的だった。
 中学から高校時代──同年代との付き合いが薄いままで社会人となった明彦には、こんな年若な美少年と接する機会が今までほとんど無かったから──。
 ただ──玲央の玄人じみた物言いや身のこなしを目の当たりにしたとき(祐二も同じ事をしているのか?)と、憂えざるを得ないのも確かだった。

 玲央は手慣れた様子でタクシーを拾い、明彦を奥の座席へとエスコートする。ありがとうと口ごもりながら、明彦がタクシーに乗り込んだ。
 玲央は後から乗り込むとちゃっかり明彦の身体に密着し、明朗な口調で的確に行き先を運転手に告げた。どうやら中々に頭の回転の良い質らしい。

 タクシーが発車し、人心地つくと玲央が話し始めた。


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