昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
41 / 121
二章 再会は胸を締め付ける

No,33 BLUE BIRDS ②

しおりを挟む

 明彦は駆け引きの口火を切った。

「お尋ねしますが、こちらに佐伯さんはいらっしゃいますか?」
 佐伯という名前が出た途端、マスターの営業スタイルがサッと消えた。
 明彦は静かに押す。
「こちらは佐伯さんのお店だと聞いて、それで訪ねてきたのですが……」

「あなた、お名前は?」
「豪田と申します」
 そう言いながら明彦が名刺入れを取り出すと、マスターはそれをそっと押し留めた。

「お名刺は結構です。以前から豪田様のお名前はオーナーから聞いておりました。いらしたら取り次ぐようにと……」
「そうでしたか。では、優夜の件で伺ったと取り次いでいただけますか?」
「少々お待ちください」
 マスターは店の奥へと姿を消した。何やら電話を掛けているようだ。

「お兄さん、そんなに若いのに優夜さんのお客様?」
「え?」
 振り返ると、そこには派手な風貌の美少年が立っていた。
 明るい色の髪がカールしている。長いまつ毛に囲まれた大きな瞳が、明彦の目を食い入るように見詰めている。

「豪田って聞こえたけど、もしかしてあの豪田物産の豪田さん?」
 豪田と名乗れば、多くの日本人がこう言う類の反応を見せる。明彦は辟易としていた。
「あ、いや思い違いだよ。豪田と言っても俺はそんなじゃない」

「でも優夜さん目当てなんですよね?こう言っちゃ何だけど、普通はお兄さんみたいな若い人が優夜さんに手を出せるはずがない。
やっぱり御曹司様なんでしょ?」
「き、君は……!」

「あら玲央ちゃん、ご熱心に営業かしら?」
 マスターが立ち戻り、二人の間に割って入った。
「だってマスター、優夜さんのお客様なら僕だって顔ぐらい売っておきたい」
「あら、向上心って言うか野心って言うか……まあいいわ、このお商売には必要なことね」
「だったらマスター、優夜さんばかりじゃなく僕にだって!」
「よしよし、チャンスは上げるからお待ちなさいな」

 マスターが明彦へ向き直り、妙に真剣な表情を見せる。陽気な作り笑顔は消えていた。
「先ほどは失礼致しました。私はこの店を任せられている熊田原と申します」
 熊田原──マスターの風貌とその個性的な苗字が妙に絶妙で 、明彦は一瞬吹き出しそうになるのを辛うじて堪えた。
 お陰でこの店に入るまでの極度な緊張が吹き飛び、瞬時に平静を取り戻すことが出来た。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

愛玩人形

誠奈
BL
そろそろ季節も春を迎えようとしていたある夜、僕の前に突然天使が現れた。 父様はその子を僕の妹だと言った。 僕は妹を……智子をとても可愛がり、智子も僕に懐いてくれた。 僕は智子に「兄ちゃま」と呼ばれることが、むず痒くもあり、また嬉しくもあった。 智子は僕の宝物だった。 でも思春期を迎える頃、智子に対する僕の感情は変化を始め…… やがて智子の身体と、そして両親の秘密を知ることになる。 ※この作品は、過去に他サイトにて公開したものを、加筆修正及び、作者名を変更して公開しております。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...