昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,32 BLUE BIRDS ①

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 そのビルは喧騒に包まれた新宿の繁華街から東に離れた、妙に物静かな一角に建っていた。

(果たしてここに祐二はいるのだろうか?)

「二丁目」と呼ばれるその街に、既に明彦は何度か足を踏み入れていた。
 もちろん祐二の捜索のためではあるが、しかし明彦がこの街で感じるのは違和感と言うより、明らかに親近感と言った方が相応しい。
 明彦がずっと胸の奥に閉じ込めている祐二への切ない想いも、この街でなら隠すこと無く許され、解放することが出来るような気がする。

 大きく深呼吸をし、エレベーターのボタンを押した。 
 最上階──落ち着いた黒塗りのドアに金文字で綴られた「BLUE  BIRDS」の店名。
 明彦は意を決し、静かにそのドアを開いた。

「いらっしゃいませ~♪」
 張り詰めた明彦の心とは裏腹に、妙に明るい声が飛んで来る。
「こんばんは」と応えながら、明彦は店内に足を踏み入れた。

「あら?随分若い男前さんじゃありませんか。うちへのご来店は初めてかしら?」
 いかにも二丁目のマスターらしい風貌の中年男が、営業らしい抑揚で声を張りながら笑顔を見せた。
「はい、初めて伺いました」
 明彦は勧められたカウンター席に腰を下ろし、そして瞬時に店の中の様子を見回した。
 店内にはところ狭しと、あらゆるタイプの青年達がひっそりと静かにたたずんでいる。
 明彦は取り敢えずバドワイザーを注文した。

「お客様、この店のシステムをご存知でいらしたのかしら?」
 短髪口髭の見た目にはいかついマスターが、そのTシャツ越しにも分かる筋肉体型とは似つかわしくもない女言葉で対応してくる。
「分かっています。ただ、実は人を探しているんです」
「まあ?好みのタイプをお探しなのかしら?ごゆっくりと良~く吟味してくださいませ♪」

 どうもやけに陽気なのはこのマスターばかりで、ボーイと思しき若者たちは皆一様に押し黙っている。明彦は隈なく店内を見渡した。
──まるで女の子のような顔をした美少年風。真っ黒に日焼けにしたサーファー風。スポーツ刈りの体育会風。おしゃれな服装のシティボーイ風──。
 ありとあらゆるタイプの青年達が、皆一様に明彦の事をジロリと一瞥する。
──そして、その中に祐二の姿はなかった。

 明彦は駆け引きの口火を切った。


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