昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
39 / 121
二章 再会は胸を締め付ける

No,31 待ちわびていた報告

しおりを挟む

 1984年──東京。
 経済は活発に動いている。街は間近に迫るバブル景気を予感させ、派手に色付いていた。

 明彦──24歳。
 オックスフォード大学を卒業後、日本に帰国して2年目のことだった。
 豪田物産に入社以降、何かにつけ多忙な日々を送る明彦の元へ、今や明彦の正式な秘書となった藤代が、待ちに待った知らせを持って報告に上がった。 

「明彦さん、例の件ですが、ようやく報告が上がって来ました」
「え?祐二のことで何か分かったのですか?」
 藤代が懇意としている調査会社に祐二の件を依頼している事は認知していた。
 ただ、今や表立って名前を出す訳に行かない明彦は、ひたすらその報告を静かに待つしかなかった。

「いえ、この件についてはよくご存知の通り、なかなか調査には難しい点が多いのです。
ただ、例の佐伯という男のことですが、都内にいくつか水商売系の店を持っているらしく、そのひとつ、新宿にあるブルーバーズと言う店が、どうやらその佐伯の経営らしいと言う事までは分かったのです」
「ありがとうございます。それだけ分かれば十分です。彼なら必ず祐二の居所を知っているはずだ」

「行かれるのですね、その店に……」
「もちろんです」

「その店がどう言う店か、ご説明しなければなりませんね」
「いいえ、僕は自分なりにも色々と調べましたし、その筋の事に関しては知識も得ました。
その店がどういう類の店なのか、今の僕には容易に察しがつきます」

「そうですか。やはりお 一人で行かれるのでしょうね」
「そのつもりです」

「その方が……きっとよろしいのでしょうね……」
 藤代は明彦の机にそっと報告書を置くと、そのまま黙って背を向けた。

「藤代さん、本当にありがとうございました」
「どうか冷静に、慎重な対応をお願い致します」
 藤代は背を向けたままそう言うと、静かに明彦の部屋を去って行った。


(帰国してからの2年間、ずっとこの時を待っていた!)


 明彦は報告書を手に取り、冷静にその文書に目を通す。


(待っていろ祐二!俺が直ぐに迎えに行く!)


 片時も忘れる事の無かった祐二への思い──明彦の胸は静かな決意に燃えるのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

処理中です...