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一章 黄昏のパリは雪に沈む
No,30 さらばパリに舞う影
しおりを挟む(さよなら……パリ……祐二と巡り会わせてくれた、切なくも愛おしい街並み……)
明彦は虚ろな眼差しを飛行機の小窓へ向け、飛び立ったばかりのパリを眺めた。
機体は一路、ロンドンへと向かう。
(祐二、おまえはとんでもない事をしでかしてくれたな、せっかく出会えたのにまた姿を消してしまうなんて……)
明彦の脳裏に、変わり果てた姿の祐二が浮かぶ。
(あんなおまえの境遇を知らされて、俺はもう、居ても立っても居られないじゃないか……!)
藤代は昨夜、思い詰めた明彦の話を真摯な態度で聞いてくれた。
祐二との経緯を話しながらもつい回想にひたり、感傷に溺れそうな明彦ではあったが、それでも何とか筋道を立て、祐二との関係を説明出来たかとは思う。
関係──と言っても、全てを打ち明けた訳では無い。やはり祐二に対して思春期に芽生えた、まるで「恋」のような心情は話せなかった。
いや、これは自分でも封印しようとしている感情だ。自分でも認めていない感情を藤代にあえて知らせる必要も無い。
それでも幼少の頃からの祐二との絆を切々と伝え、藤代にはきっと理解してもらえたと信じる明彦だった。
ふと、頼もしげな藤代の顔が目に浮かぶ。
「明彦さん、お任せ下さい。
お二人の事情は良く分かりました。東京に戻り次第なるべく早く、何とか祐二さんの所在が明らかになるよう手を尽くしましょう。
どうかこの藤代をお信じあって、明彦さんは心置きなくオックスフォードへお帰り下さい」
数刻前、別れ際にそう言ってくれた藤代の言葉だけが、今の明彦には支えだった。
(藤代さん、お願いします。今の俺には何も出来ない……)
既にパリは遠く眼下の果へと消え去った。明彦は力無くシートに身をゆだね、潤んだまつ毛をそっと伏せる。
(……優夜?)
明彦の脳裏に華やかなドレス姿の優夜が浮かんだ。
憂いを込めた伏せ目がちな微笑み。そんな優夜を強く抱き、思いを込めて踊ったあの円舞曲──。
その妖艶な姿は、どうしても昔の祐二とは重なり得ない。
(なぜ?どうしてこんな事になってしまった!)
込み上げる思いに目頭が熱い。
(佐伯と言ったな。あの男は一体、何者なんだ?)
女装の男娼──酷い!あまりにも酷すぎる!
祐二が自ら望む筈ない!!
虜に涙する祐二が見える。
一刻も早く救い出したい。
(愛しているんだ、おまえだけを!)
身を切られる思いに、ついに明彦は一筋の涙を流した。
(ずっと……おまえだけを……)
時の流れはあまりにも惨い。
祐二には明彦の知らない過去が有った。
(待っていろ祐二、俺が必ずおまえを見つける!)
激しく揺れ動く想いを乗せて、旅客機は遥か雲の彼方へと消えて行った──。
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