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一章 黄昏のパリは雪に沈む
No,27 明日、パリを発つ
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明彦にとってこの数日間ほど目まぐるしく、そして感情をかき乱された日々がかつて有っただろうか。
パリでのほんの短い間に、これからの生き方を決定付ける程の再会と別離を経験し、それでも勇み立つ明彦の心はもう既に東京にあった。
(早く、一刻も早く帰国しなければ!何としてでも必ず祐二を捜し出すんだ!)
しかし明彦の気持ちとは裏腹に、明日搭乗する飛行機は東京ではなくロンドンへと向かう。明彦が帰国するにはまずオックスフォードへ戻り、大学卒業を果たさなければならない。
明彦は苛立ちにも似た焦りを感じ、やり場のない熱い想いを持て余していた。
そんな明彦の部屋に藤代が訪れたのは既に陽も落ち、窓の下に広がるパリの街も外灯に彩られる頃であった。
「明彦さん、遅くに申し訳ありません。色々と雑事に追われましてこのような時間になってしまいました」
「藤代さん、会えて良かった。僕も明日パリを発つ準備がようやく整ったところです」
「私も明日帰国します。東京に戻り、明彦さんの帰国後の準備を整えて置きますので、どうぞご無事の御卒業とお帰りをお待ちしております」
「藤代さん、本当にお世話になりました。
あの……例の件に関しては、心から感謝しています……」
どうしても憂いを隠せない明彦の様子に、藤代はやはり黙ってはいられない。
「明彦さん、こう言うプライベートな事は……その、秘書としては気付かぬ振りで済ませた方が良いのかも知れませんが……」
「何でしょう?どうぞ言って下さい。僕は藤代さんを頼れる兄のように思っています」
「はい、それでは秘書としてではなく、子供の頃からよく知っている年上の知人としてお聞きします」
「優夜の事ですね?」
「はい、あなたのその気落ちしたご様子は、やはりあの人の事が原因だとしか思えません。
よろしければ事情をお聞かせ願えませんか?」
明彦は躊躇した。
はたして、藤代に自分と祐二の深い絆を理解して貰えるだろうか?
そして何より、事情を話すこと自体が祐二の存在を辱め、貶める事にはならないか?
しかし、祐二の捜索と言うかなり困難な課題が生じた今、それを果たすためには日本における協力者が不可欠な事は確かだった。何せオックスフォードにいる限り、自分には手も足も出せない。
明彦は決心した。
藤代は明彦にとって十分に信頼の出来る、尊敬に値する人物である事は確かなのだから──。
「お願いします。藤代さんには何もかも全てお話します。
どうか聞いて下さい……」
明彦は言葉を選びながらゆっくりと、そしてひとつひとつ、自分と祐二の事を話し始めた。
藤代は静かに、真摯な態度でその話に聞き入った。
明彦の思い詰めた打ち明け話はそう簡単に済むはずも無く、やがて華やかなパリの灯もひとつひとつ消されて行った──。
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