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一章 黄昏のパリは雪に沈む

No,24 祐二からの手紙 ①

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 取り乱した心の整理もつかぬまま、急ぎお便り致します。

 明彦様──この手紙をホテルのフロントへ託しました。貴方が明日、お出掛けになる時に渡して貰えるようにとお願いして──。
 何故なら貴方がこの手紙を目にする頃、僕はもう、このパリを発っている事でしょうから。


 貴方に会えて、貴方の心を知る事が出来て、僕はとても嬉しかった。
 でも、身も心も汚れきってしまった僕は、もう貴方と一緒には居られません。
 貴方に迷惑を掛け、足手まといにしかなれない僕は、きっと貴方の将来を邪魔する事になるでしょう。


 貴方と離ればなれになってから、僕には辛く悲しい事が多かった。
 でも、貴方が僕の事を忘れずにいてくれた事、ずっと変わらず気に掛けてくれていた事──それが分かっただけで、どんなに僕の気持ちが救われたことか。

 まして貴方は、こんな醜聞だらけの汚れた僕を、この苦界から助け出してくれるとまで言ってくれた。
 もう十分です。
 涙が出るほど嬉しいけれど、もう十分なんです。


 13歳の時、突然音信不通だった父親が名乗りを上げて、僕を引き取りにやって来ました。
 一体、何の目的で?
 なぜ父が僕の事を引き取ったのか、いまだにそれが分かりません。

 父は少しも僕に優しくなかった。一緒に暮らし始めても、全く嬉しそうな様子は無かった。
 それどころか、父は理由もなく僕に手を上げるような人でした。
 何故そんな暴力を受けるのか、僕に何か悪いところがあったのか、僕には父の気持ちが分からなかった。

 それでも僕は耐えました。
 孤児と言われて育った僕は、たとえどんなに酷い親でも、家族と一緒に暮らせると言う事実を大切にしたかった。
 それなのに父はある時、もうどうしたって一緒には居られない程の惨い仕打ちを僕に与えました。その内容はとてもここでは書けません。
 僕は身も心もぼろぼろで、電車賃だけを握りしめ、身体ひとつで逃げるように上京したのです。


 確かに初めは貴方を頼って行くつもりでした。僕には貴方しかいなかったから。
 だけどいざ豪田家の前まで行ってみると、僕には扉を叩く勇気が無かった。
 この家で頑張っているだろう貴方の事を思うと、せっかく掴んだ貴方の将来の事を思うと、僕はやっぱり、この情けない自分を見せる事が出来なかった。
 何より手紙ひとつ貰えなかったあの時の状況を思うと、貴方に会うのがとても怖くなったのも正直な気持ちでした。


 その後、僕が東京でどんな暮らしをしていたのか、どうしてこんな事になってしまったのか、それをここに詳しく書く事は控えます。

 ただ、佐伯さんの事だけは誤解しないで欲しいのです。

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