昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
上 下
24 / 121
一章 黄昏のパリは雪に沈む

………別離の追憶

しおりを挟む

「アキ兄ちゃん本当に?やっぱりどうしても行っちゃうの?」

「ああ、仕方がないんだ。どのみち中学校を卒業したらこの施設は出て行かなきゃならないし、そうしたら俺達の夢は叶わなくなってしまう」

「そんな、僕は離れたくないよ!絶対に嫌だ!」

「分かってくれよ祐ちゃん。俺はいつかきっと家を買うんだ。俺たち二人の家を……!」

「だから!それは二人で頑張って……」

「祐ちゃん……だって俺達、このままじゃろくに高校へだって行けないだろ?二人でどれだけ頑張っても……家なんて持てやしない。
豪田さんは、俺を東京一の高校へ進学させてくれるって言うんだ。それに大学も……」

「だけど大丈夫?
豪田さんは確かにお金持ちだし、周りのみんなはそんな家の養子になれれば最高だなんて簡単に言うけど、豪田さんなんて、単にアキ兄ちゃんの優秀な成績に目を付けただけじゃないか。きっと、何か魂胆が有るに決まってるんだ!
それで本当にいいの?本当にそれで幸せになれるの?」

「分かってる。
確かに俺の名前が全国模試の優秀者として公表されていなかったら、きっとこんな絵空事のような養子縁組の話なんて、普通は持ち上がる事も無かっただろうな」

「アキ兄ちゃん、だったら!」

「だけど、いや!だからこそチャンスだと思うんだ。こんな機会を逃したら、家を買うどころか俺達まともに食って行けやしない。
豪田さんが俺の成績しか見ていないって言うならむしろ対応は簡単だ。勉強すりゃいいんだ!勉強さえ頑張れば認めて貰えるんだし、道は必ず開ける!」

「いらない!家なんていらない!ボクはアキ兄ちゃんと居られればそれでいいんだ!
行かないで?
離ればなれは嫌だよ!
ボクはアキ兄ちゃんとずっと一緒に居たいんだ!」

「泣くなよ祐ちゃん、俺だっておまえと離れたくはないんだ。だけど、このままじゃどうにもならないって分かるだろ?」

「アキ兄ちゃん、それは……」

「俺が勉強して身を立てて、豪田家の一員として自立出来たら必ず迎えに来る!
それまでだって、俺たち別に音信不通になる訳じゃないし、離れて暮らしていても俺たちの仲は何も変わらないよ!祐ちゃんの高校だって、何とか俺が考える」

「高校なんて行かなくてもいい!僕だって働いて、自分の事くらい何とかする!
それより約束だよ?
このまま会えなくなったりしないんだよね?
必ずいつかは一緒なんだよね?」

「ああ、もちろんだ!
東京に行っても連絡は絶やさないから!」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...