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一章 黄昏のパリは雪に沈む
………将来を語った日の夢
しおりを挟む「アキ兄ちゃん……どうして僕達にはお父さんもお母さんもいないのかなぁ」
「ほら、園長先生がいつでも言ってるだろ?親がいなくても、自分さえしっかりしていれば必ず神様が味方してくれるんだって」
「神様が?神様なんて、何もしてくれないよ……」
「だったらほら、祐ちゃんには俺がいるだろ?それじゃ駄目かな?寂しいかな……?」
「ん~ん、平気!僕アキ兄ちゃんがいれば大丈夫」
「祐ちゃん、本当?」
「うん、僕、ここが好きだよ。
春には園庭の椿が咲くでしょう?あの白い花が大好き。寒~い冬が過ぎて冷たい雪が溶けると、毎年変わらずあの花が咲くんだ。
アキ兄ちゃんと一緒にね、毎年変わらずあの花を見ていたい」
「そうだね、祐ちゃんは白い椿の花が好きだったよね。
それならきっと、いつかきっと、俺たちの家には椿を植えよう」
「え、僕達のおうち?」
「そうだよ。祐ちゃんは心臓が弱いから俺がずっと守ってあげる。
一生懸命勉強して、立派な仕事に就けたら家を買うんだ。毎年椿の花が咲く俺達二人のおうちだよ?きっと、必ず買ってあげる」
「本当?本当に?
アキ兄ちゃん、僕おうちなんていらない!椿もいらない!
アキ兄ちゃんと一緒にいられるなら、僕はそれだけで十分なんだ!本当だよ?」
「祐ちゃん、俺は嘘なんて言わない。俺達はいつまでも一緒だよ。
けど、家は買う……俺たちの家は絶対に買うんだ、たとえ……何が有っても必ず……!」
「アキ兄ちゃん……?」
────アキ兄ちゃん…
───何もいらないよ…
──一緒に居られれば…
──それだけで…
覚醒を促すように、重い目蓋が薄く開いた──。
明彦はいつものホテルのベッドの中。
(祐二……どうしておまえは……)
今宵はいよいよ侯爵邸での夜会の日だ。いつまでも夢見心地ではいられない。
(……起きるか)
夕刻には藤代と会う事になっている。
もしかすると調査の結果が出たのかも知れない──。
明彦は重い身体を静かに起こした。
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