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第1章 黄昏のパリは雪に沈む

No,8 翌日の再会

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 明彦が白椿の美女に会った翌日、早速にも明日開かれる夜会の招待状が明彦の元へと届いた。
 彼女がどうして明彦の身元を知る事が出来たのか──侯爵家からの招待状は、豪田物産パリ支社を通して明彦の手に届けられた。


(まさか昨日の今日で正式な招待状が届くとは!やはりあの誘いは偽りではなかったんだ……)


 心ときめかせ、胸躍らせる明彦。その日は明彦にとっても多忙で雑事に追われてはいたが、もはや胸中は彼女の事で一杯である。

──そしてその夕刻。
 長い一日を終えホテルに戻った明彦ではあったが、明日の夜会がどうにも待ち遠しく、浮き足立って仕方がない。


(俺、かなりテンションが上がってる。どうせ今夜は寝付けないんだろうな……)


 興奮を自覚した明彦は早寝など出来ないと思い切り、夜更けのパリの街に一人で出掛けてみる事にした。
 そしてその夜、明日の夜会を待たずして再び彼女に出会う事になろうとは──それは明彦にとって、あまりにも出来過ぎた偶然だった。


 或る、由緒有りげなホテルの玄関前だった。玄関から歩道へ突き出した車寄せの屋根の周りに、多くの人が物見遊山にたむろしている。

(何事だろう?)

 明彦は見るともなしに人影の間から様子を伺って見た。どやら今宵、このホテルで何やら催し物が有るらしい。
 次々と車寄せに入る高級車の中から、華やかに正装した紳士淑女がまるでハリウッド映画のように繰り出して来る。
 詰め掛けた人々は新しい来客が到着する度に感嘆と羨望のため息を吐いて、それを物見高く見詰めていた。

(本当に、ここは華やかな街だな……)

 明彦が所詮自分とは無縁な事と、その場を遣り過そうとしたその瞬間──かの美女がいきなり明彦の視界に飛び込んで来た。


(あ!)


 彼女は、昨夜の和服姿とはあまりにも違った強烈な色彩を放ち、並み居る人々を圧倒した。それは派手過ぎる程に鮮明な真紅の夜会服であった。

 光沢の強いしなやかな生地はか細い身体をタイトに包み込み、少々多めに引きずるその裾丈と彼女独自の楚々とした所作は、その鮮烈な色彩を限りなく優雅なものへと昇華させる。
 肘まで届く長い手袋も同じ光沢の鮮明な真紅。髪飾りも同系の真紅。そして、その胸には血の色をした大粒のルビーが輝いていた。

 驚き、呆然とする明彦。


(何と言う偶然だ!昨夜に続き、今夜も出くわすなんて)


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