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1章 孤独との闘い

五品目 アジフライのタルタルソース添えを編集

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 天は青く心地のいい潮風が俺に寄り添うように吹いていて、暖かな日差しに包まれている中、俺は極度の集中状態にあった。

 目の前を風に纏われ飛んでいる木の葉の葉脈の1本1本が確認できる程に俺の時間はゆっくりと流れている。そんな中俺は動かず真っすぐと正面を見据え、機会チャンスを伺っている。

 ‥‥‥ぴくッ。

「ぬぅおぅぅッ!!次こそ必ず仕留めてみせるッ!!」

 これが最後の機会チャンス。絶対にミスは許されない。でも焦るな。ゆっくりでいいんだ‥‥‥圧倒的に俺の方が有利な事には違いない。

「威勢がいいのは最初だけみたいだなッ!人を外見だけで判断するからこういう事になるんだ。さあッ!ラストスパートだッ!!俺の‥‥‥勝ちだッ!!」

 3時間にも及んだ激闘・・・最後は俺の勝利で終わった。両手を大きく腕を振り上げて空に舞い上がった魚は俺の背後に落ちていった。

 そう‥‥‥俺は魚釣りをしていた。



 
 ー魚釣りの数時間前ー


 この島に来てもう3か月か。ノワルとゴマもあの日からずっと俺の傍にいて、今も一緒にすごしている。動物の成長は早いとか言うけど、ゴマもこの3か月で馬くらいでかくなったよ。

 身体は大きくなったけどまだまだ子供みたいで、俺にじゃれついてくるんだけど、ゴマと遊ぶのも必死だよ。馬が俺に飛び掛かってくるようなもんだぞ?上に乗っかられた時は内臓が口から飛び出るかと思ったよ。

 俺は2匹の料理担当のようで、ゴマに狩りの仕方を教えるついでにいつも俺に仕留めた獲物を持ってくる。俺は魔物の料理人になりたいんじゃなくて、古民家レストランを開業したいんだが。

 まぁ‥‥‥そんな俺の夢も人っ子1人いない島を脱出しないとそもそも叶わない夢なんだけどな。

 勿論俺も料理を作ってるだけじゃなくて、あれから森の中を探索したりしてみたけど、なんの進展もなかった。やっぱり頼みの綱は頂上にある洞窟なのかもしれない。そろそろ覚悟を決めていくしかないか。

 だけどその前に俺にはどうしてもやりたい事がある。ノワルが狩ってきてくれるのは猪とかウサギとか、肉ばっかなんだよ。ノワルのお陰で食料に困らないし、魔石だって十分すぎる位に集まってありがたいんだけどさ。こうも毎日肉と帆立ばっかりだと飽きてくるんだよ。

 だから俺は魚が食いたい。魔石で調達すればいいとか野暮な事は言うなよ?俺が釣った魚で料理を作りたいんだ。

 せっかくこんな綺麗な海に囲まれた島に居るんだ。俺の釣りデビューには持って来いだろ。そんなわけで釣り道具を魔石で調達っと。

 初めての釣りだからルアーなんて洒落たのじゃなくて餌釣りでいいな。餌は帆立の貝柱を小さくしたのを付けるとして、場所は魚が潜んでそうな岩場が多い所でやってみるか。

「ノワル、俺はちょっと釣りをしてくるけどどうする?またゴマに狩りを教えに森に行くか?」

 日陰で横になって休んでるノワルに聞いてみたら、立ち上がって近くによってきたから、どうやら俺の釣りに付き合ってくれるらしい。ついでにゴマも尻尾を振りながら付いて来ている。頼むからはしゃぎ過ぎて崖から海に落ちるなよ?

 そうして1人と2匹で砂浜を歩いて少し崖になっている所に到着した俺は、人生初の釣りをする事にした。始めてとは言っても釣りの番組を見てたりしたから知識だけはあるからな。今日はいっぱい魚を釣って魚料理を堪能するんだッ!!




 そう思ってた時期が俺にもありました。魚は居るみたいなんだけど、俺の竿をあげるタイミングが悪いのか餌だけ取られちゃうんだよ。意外と難しいぞ。

 最初は興味深々で2匹は俺のやってることを見てたけど、今じゃもうノワルは日陰で休んでるし、ゴマは近くの砂浜を走り回って遊んでるわ。

 なんか段々と悔しくなってきたな。もう少し応援してくれればいいのに‥‥‥釣れたら絶対に俺だけで食ってやる。さぁ気を取り直してどんどんいくぞッ!!



 くッ!!また餌だけ取られる・・・これは俺が悪いんじゃなくてきっとこの世界の魚が賢いんだ。ノワルだって言葉を理解してるし、きっとそうなはず。そうであってほしい!じゃないと納得できるか!もうこのでっかいホタテが無くなる位、餌だけ食われてるぞ!?

「あいつらは呑気だな。料理担当がこんなに頑張ってるのに。ノワル!!お前狩りしないと今日の昼飯は抜きだからなッ!!」

 日陰で優雅にお休みになってるノワルを見たら、ちょっとイラッとしたから言うと、ノワルはめんどくさそうに立ち上がって俺の近くにきた。

 尻尾で俺の事をグイッとどかしてきたので多分、どけって事なんだろうな。素直に場所をノワルに譲って何をするのかと見ていたら、海からでっかい水の玉が出て俺たちの後ろに落ちた。

 中には10匹程の魚がピチピチと地面を跳ねている。

「ノワル‥‥‥お前魔法を使えたのかよ」驚いた俺は呟くと、ノワルは俺の方を横目でチラッとみながら鼻息を鳴らしてまた日陰に戻っていった。

 こんな簡単な事も出来ないの?と言われているような態度にとてつもない敗北感を感じた俺は、地面を跳ねる魚を拾い集めるのだった。

「魚は集まった‥‥‥だが、俺は釣りあげたいッ!!1匹だけでもいいからなんとか釣るッ!!」


 後ろからはノワルの呆れたような視線。そんなのは気にするな。集中しろ‥‥‥俺は自然の一部。



 ◇
 ー3時間後ー

 魚との死闘を繰り広げてなんとか最後に勝利をもぎ取った。このやり切った感は今まで味わった事がない感情だな‥‥‥けど暫く釣りはいいな。もう満足だ。

 砂浜で遊んでたゴマももう飽きてしまったみたいで、クーラーボックスに入ってる魚の匂いを嗅いで珍しそうにしていた。

 俺が釣った魚は見た目はクロダイに近いんだよな。ノワルが卑怯な手で獲った魚も、地球で似ているのを見た事あるから大丈夫だと思うけど、毒とかないよな?

 今更ながらその事に思い当たった俺だけど、そこはノワルが解決してくれた。魚の匂いを嗅いで食べれない魚は海に放り投げていた。


 行きとは違い重くなったクーラーボックスを担ぎながらなんとかテントまで戻ってきた俺は、とりあえず魚を捌いてどんな料理に合いそうか確認する事にした。

 俺が釣った魚が1匹。ノワルが卑怯な手で捕まえた魚が9匹で全部で10匹だな。俺が釣ったクロダイみたいなのは40センチ位あるな。こいつは刺身で食う事確定だな。

 アジみたいなのは全部アジフライにしてタルタルソースでいいし。一番数が多いメバルみたいなのは煮つけにでもするか。

 まずはクロダイとアジを3枚におろして、クロダイは刺身だから皮を剥がして柵にして切れば完成だな。

 アジの前に少し時間がかかる、メバルの煮つけから作ろうか。まずは鱗から取って次に内臓を取り、綺麗に水洗いをする。ちゃんと水洗いしないと臭いが残ったりするから注意だな。

 水洗いをしても完全には臭いが残ってるから、沸かしておいたお湯をメバルにサッとかけて臭いを撃退しよう。これで、メバルの下処理は終わりだな。

 次は鍋に水、酒、みりん、砂糖、後はショウガをいれて沸かしていう。分量は正直メバルの大きさや量によるからそこはなんとなくでやってくか。

 煮立ってきた鍋にメバルを入れて、落し蓋をして12~3分中火で煮込んでから、醤油を最後に加えてさらに5分落し蓋をして完成ッ!!

 めっちゃいい匂いしてきたわ。この島に来てから初めての魚だから滅茶苦茶楽しみだ。後ろで尻尾を振りながら待ってる2匹に最初は食わせてやるか。

「これが【メバルの煮つけ】だッ!!味わって‥‥‥早ッ!!もうない。俺の分ものこしておけよッ!!」

 速攻で2匹の胃袋に煮つけが収まってしまった。早い物勝ちといわんばかりの顔をしてこっちを見やがってッ!!

「まぁしょうがないか。次はアジフライにタルタルソースでも作るか。これは絶対に俺も食べるぞ」

 最初におろしておいたアジには塩と胡椒を振っておいたんだけど、これは絶対にやった方がいいぞ?塩コショウを振って10分ぐらい置いておくと、アジの身に良い感じに塩気が入って、さらに生臭さが感じにくくなるからな。

 アジフライに関してはこんなもんだな。後は揚げ物をする時のいつものメンツを付けて、こんがりキツネ色になるまであげれば完成だな。

 脂っぽいのが苦手な人でもキャベツと大葉の千切りしたのを混ぜ合わせると、大葉の香りのおかげでさっぱりとアジフライが食べれるからおススメだ。

 後はタルタルソースを作るんだけど、まずは玉ねぎをみじん切りにして塩をまぶして5分くらい待つ。そうすると塩の効果で玉ねぎの水分がでてくるから、水分をしっかりとること。これをしないとタルタルにした時、結構水っぽくなっちゃくからきおつけてな。

 ボウルにゆで卵と玉ねぎ、刻んだピクルスとマヨネーズを入れて混ぜていく。良い感じになってきたら、レモン汁とパセリをいれて軽く混ぜ合わせて完成ッ!!

 あいつらに食われる前にまずはタルタルをつけないで1つ食べておこう。これ最高に美味い。揚げたてだからサクッとした触感で、噛むと中からアジのブリッブリの身がこんにちわッ!!してきて最高に美味い。タルタルがなくてもアジの身が強烈に主張してきて、噛めば噛むほど甘みと旨みが口の中に広がってくるわ。

 それじゃあタルタルもつけて一口‥‥‥これも最高だ。若い時は無限に食えた揚げ物も、歳を重ねるにつれて全然食えなくなってきたけど、このタルタルさえあれば無限に食えそうだ。

 ほら、お前らも【アジフライのタルタルソースがけ】食わないか?これ滅茶苦茶に美味いぞ?

 後ろで大人しくしていたノエルとゴマだったけど、俺が呼ぶと近づいてきて幸せそうな顔をしながら食ってくれた。こういう顔を見たらやっぱり料理作って良かったって思うよな。

 残りのアジフライはノエルとゴマにあげて、俺は刺身でも食べるか。うおッ!!醤油に少し刺身を付けただけなのに脂が醤油に一気に広がっていく。

 すんごい弾力だ‥‥‥脂が少しきついかなって思ったけどそんなことはなかった。噛むとこの魚の甘みと旨みが、丁度いい感じにマッチして口の中で魚が踊ってるわ。


 魚料理を堪能した俺は、明日には崖の上の洞窟でも行ってみようと思っていたけど、魚料理にハマってしまったノエルとゴマが次の日から魚を取って来るようになり、ノエル達が満足するまで崖の上に行くことは出来なかった。
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